最新記事
BOOKS

【ノーベル賞受賞】AIの父・ジェフリー・ヒントン わずか3人の会社で起こしたブレイクスルー

2024年10月11日(金)19時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
AIコンピュータ

AIは現代の生活に欠かせない技術となった。(写真はイメージです)shutterstock

<2024年のノーベル物理学賞の受賞が決まったAIの生みの親、ジェフリー・ヒントン。2012年、彼と2人の学生による小さな会社が起こしたブレイクスルーが、今日のAI技術の基礎となった>

10月8日夜、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授とアメリカ・プリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授のノーベル物理学賞受賞が発表された。受賞理由は「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的発見と発明」である。

画像生成、音声認識、ChatGPT、自動運転車、ロボット工学...etc. 今や急速に生活に溶け込み、日常に欠かせないものになってきたAI技術の進化は、ヒントンのディープラーニング研究を礎としている。

書籍『ジーニアス・メーカーズ――Google、Facebook、そして世界にAIをもたらした信念と情熱の物語』(小金輝彦・訳、CCCメディアハウス)は、「AIの父」ジェフリー・ヒントンをはじめとした研究者や開発者、その研究に莫大な金を投資する事業家たちを描いたノンフィクションのAI近代史だ。

ニューヨークタイムズのテクノロジー担当記者ケイド・メッツが500人以上の関係者に取材して書き上げた本書には、ヒントンが持病の椎間板ヘルニアのため一切座ることのできない特異な体質であることや、グーグル・マイクロソフト・バイドゥの熾烈な人材争奪戦、ヒントン自身がAIの驚異的な進化に潜む負の側面に警鐘を鳴らしていることなど、AIの技術的な側面に隠れた人間ドラマが詳細に綴られている。

持病で7年間一度も座ったことがない男

その名は、ジェフリー・ヒントン。1970年代から活躍するAI技術者であり、たった3人の会社を率いる。そんな彼の会社を、バイドゥ、グーグル、マイクロソフト、そして世界でほとんど知られていない設立2年のスタートアップ企業が大金をかけて奪い合うオークションが2012年に行われていた。

「最後にまともに座ったのは、2005年だった」とヒントンは言う。椎間板ヘルニアを極度に悪化させて、座ることをやめた。

トロント大学の研究室では、立ったまま作業のできる机を使う。食事のときは、クッション材の入った小さなパッドを床に敷き、テーブルの前にひざまずいた。長距離を移動するには、列車を使う。

ヒントンとヒントンの研究室で学ぶ大学院生2人からなる「DNNリサーチ」は、その入札が始まる2カ月前に、コンピューターによる世界の見方を変えていた。ニューラルネットワークと呼ばれる、脳の神経回路網を数理モデルで表現したものを構築したのだ。

それによって、かつては不可能だと思われていた、花や犬や猫といったありふれた物体を正確に識別することが可能になった。

ニューラルネットワークは、膨大な量のデータを分析することによって、この非常に人間的な技術を習得することができた。ヒントンはこれを「ディープラーニング」と呼び、その潜在力は非常に高かった。

コンピューター・ビジョンだけでなく、音声デジタル・アシスタントから自動運転車や創薬まで、すべてを一変させるのは確実だとされる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米多国籍企業、為替ヘッジ長期化 背景にトランプ政権

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落、円高など嫌気 売買代金は今

ワールド

北京の米国料理店、豪州産牛肉に切り替えへ 貿易戦争

ビジネス

3月コンビニ既存店売上高は前年比2.7%増、2カ月
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 9
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中