最新記事
BOOKS

【ノーベル賞受賞】AIの父・ジェフリー・ヒントン わずか3人の会社で起こしたブレイクスルー

2024年10月11日(金)19時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

newsweekjp20241011061403-a21c9f3e17905ec379a72d38e3e56c1404b5351b.jpg

グーグルと中国のバイドゥが競り合った

ニューラルネットワークの概念が生まれたのは1950年に遡るが、初期の先駆者たちは期待していたような結果を一度も出すことができなかった。数学的なシステムが、なんらかの方法で人間の脳の働きを再現するという50年前の奇抜な思いつきを形にできるなど、誰も信じていなかったからだ。

そんな中で、ヒントンはニューラルネットワークがいつの日か期待した成果をあげると固く信じていた数少ない研究者のひとりだった。大学に研究の同士を雇ってほしいと要求しても、長年拒絶されてきたという。

「こんな研究を好んでするようないかれた人間は、ひとりで十分というわけだ」と、ヒントンは語っている。

誰にも期待されず、己の信念とともに研究に邁進していたヒントンと2人の学生がブレイクスルーをもたらしたのは、2012年の春と夏のこと。

ニューラルネットワークが、ほかのどんな技術をも凌駕する正確さで一般的な物体を認識できると証明することができたのだ。

その秋に発表したたった9ページの論文で、ヒントンが長いあいだ主張してきたように、この概念が強力なものであることを世界に知らしめることになった。

「DNNリサーチ」に対する破格の入札競争が始まると、先に紹介した4社が、1200万ドル、1500万ドル......とどんどん価格を釣り上げていった。

最終的に残ったのはバイドゥとグーグル。価格が4400万ドルに達すると、ヒントンはオークションの終了を告げた。

ヒントンは終了までに、価格をこれ以上つり上げずに、グーグルに会社を売却しようと決めていた。自分たちの研究によってふさわしい場であること、そしてヒントンの腰の状態からすると、中国へ行くのは到底無理であったことも決め手だったと、ヒントンはのちに語っている。

これをきっかけに、ヒントンたちは彼らのアイデアをテクノロジー業界の中心へと押し出すことができた。

音声認識アシスタント、自動運転車、ロボット工学、ヘルスケアの自動化、そして彼らの意図に反して戦争と監視の自動化も含めた人工知能が、急激に発達していったのは自明の通りだ。

AIがもたらす負の側面にも目を向ける

先の入札に参加していたスタートアップ企業は、「アルファ碁」の開発で知られるディープマインド社である。今ではグーグル傘下となり、この10年間で最も有名で影響力の大きいAI研究所へと成長した。

囲碁は人工知能にとって、最も難しいとされるゲームのひとつとして知られる。盤面がほかのゲームに比べて広く、コンピューターでも計算しきれないためだ。

その囲碁において、ディープマインド社が作りあげたAIが世界最高峰のプロ棋士に勝利したことが、2015年、世界中を震撼させた。ついにAIがディープラーニングによる自己学習で、人間を打ち負かしたのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中