アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発
THE BATTLE OVER BIG DATA
5月のロイターの報道(匿名の情報源に基づく)によるとバイデン政権は、データの販売と閲覧を内容とする商取引を調査し、国家安全保障上のリスクが大きい場合に取引を差し止める権限を司法省に与えることを検討している。
記事によれば保健福祉省に対しても、連邦政府の資金援助の下で国民の医療・健康関連のデータが外国の敵対勢力に渡ることを防止させることが検討されている。
しかし、どのようなデータが国家安全保障上のリスクをもたらし、そのリスクにどのように対処すればいいかは、意見が分かれるところだ。ポティンジャーのような対中強硬派が指摘するリスクは確かにあるが、過度に厳しい規制を導入すればアメリカの利益が損なわれかねない。
米自由人権協会(ACLU)などは、早くもその兆候を指摘している。司法省は昨年1月、中国系アメリカ人のナノテクノロジー研究者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のガン・チェン教授を起訴した。中国の大学などから資金提供を受けていた事実を開示せずに、米政府の研究資金を受け取ったというのが理由だった(司法省は今年1月、起訴を取り下げた)。
アメリカの研究機関で働く中国系の科学者に圧力をかけたところで、癌研究から半導体までさまざまな分野で「逆・頭脳流出」が起こるだけかもしれない。
「政策決定に携わる人々の間では科学、特にバイオテクノロジーを安全保障問題としてみる傾向が強まっている」と、中国におけるバイオテクノロジーの発展を研究しているバッサー大学のアビゲイル・コプリン准教授は言う。「その結果、失われるものについては誰も気に掛けていないようだ」
バイオテクノロジー分野の場合、コプリンの言う「行きすぎた安全保障問題化」は、アメリカで病気と闘っている人々、アメリカの競争力、そして世界的な科学の進歩にとって明らかなリスクになる。新しい治療法の開発につながるはずの研究協力や知識の共有が阻害されるからだ。
アメリカでは報道においても、中国によるデータ収集は「アメリカ人のプライバシーへの脅威」として語られることが多い。だが世界的に見れば多くの人が、アメリカこそ最大の脅威だと考えている。
ヨーロッパの人々は、エドワード・スノーデンが13年に公表した米国家安全保障局(NSA)の大量の機密文書のことを忘れていない。この文書には、米政府が世界各国の指導者や一般市民の電子メール、ショートメッセージ、携帯電話の位置情報といった膨大な量の個人データをかき集めていたことが示されていた。