アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発
THE BATTLE OVER BIG DATA
デジタル世界は中国式とアメリカ式に二極化(昨年11月の米中オンライン首脳会談) KEVIN FRAYER/GETTY IMAGES
<中国による個人情報収集に対する警戒感が高まるが、そもそも米テック企業も個人情報を利用してきた。過度な規制は国益を損い、中国優勢となるジレンマ>
ビッグデータ時代における米中間の軋轢の激化を示す格好のエピソードがある。新型コロナウイルスが猛威を振るうさなか、中国人の遺伝学者・実業家の汪建(ワン・チエン)が米当局に新型コロナの検査機関を新設したいと申し出たのだ。
汪はアメリカのバイオテック業界ではよく知られた人物だ。アメリカのいくつかの大学で研究者として経験を積んだ後に起業し、現在は深圳に本社を置く世界最大のバイオテック企業BGIの会長を務める。
BGIはヒトゲノム解読の国際プロジェクトにも貢献。アメリカの遺伝学者とも縁が深く、ゲノム編集を使った先駆的研究で知られるハーバード大学のジョージ・チャーチ教授と共同研究を長年行い、彼の名を冠した研究所を中国に設立したほどだ。
ところが、米当局は汪の申し出をはねつけた。汪の計画は、「外国の勢力が新型コロナの検査を通じ、生体情報を収集、蓄積、利用」する事態を警戒する国家防諜安全保障センター(NCSC)の規定に触れたのだ。
トランプ前政権下でNCSCのトップを務めたウィリアム・エバニナに言わせると、BGIの検査機関は「現代版トロイの木馬」にほかならない。中国政府がアメリカ人の「個人データを発掘する」ための「足場」になる、というのだ。
この一件は、ビッグデータをめぐる米中の緊張の高まりを浮き彫りにした。グーグルやフェイスブック(現メタ)が利用者から収集し、企業のマーケティング用に売る情報など、インターネット上を日々飛び交う膨大なデータ。このビッグデータの保護管理は国家安全保障上の重要課題となっていると、一部の政治家は主張する。
彼らが警戒するのは、中国がアメリカの国家と市民のデータを強力な掃除機で吸い取るように奪うこと。それも企業秘密を盗み、世論を操作するためだけでなく、将来的に技術覇権を握るためにデータを集めることだ。人工知能(AI)の活用が進む今、ビッグデータは戦略的重要性を帯びつつある。
このところ米政界のタカ派寄りの安全保障問題通の間では、中国共産党によるデータの監視を警戒する声が高まっている。中国共産党は国内のデータのやりとりを完全に監視下に置こうとしており、中国に進出した西側企業もその対象になるというのだ。
中国は以前から国家ぐるみの産業スパイ活動を行っているとみられているが、今後その活動が一段とエスカレートする恐れがある。