アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発
THE BATTLE OVER BIG DATA
対中強硬派は、中国のデータ収集がアメリカの国家と経済の安全保障を脅かすと主張。アメリカに進出しているテクノロジー関連の中国企業を広く調査すべきだと、バイデン政権に訴えている。
この手の脅威を見過ごせば、アメリカの経済・軍事・通商上の利益が損なわれ、市民は中国のスパイ活動と世論操作の餌食にされかねないと、彼らは主張する。
対中強硬派の圧力は効果を上げているようだ。商務省関係者が本誌に明かした話では、同省は中国など外国の敵対勢力と関係があるテック企業の調査を少なくとも4社に対して行い、さらに対象を広げる予定だ。
ネットは中国を変えなかった
バイデン政権はコメントを控えているが、米議会では党派を超えてこの問題への関心が高まっている。エバニナは昨年8月に上院情報特別委員会で、「アメリカの成人の推定80%は中国共産党に個人データの全てを盗まれ、残り20%は大半を盗まれている」と警告した。
「データは21世紀の石油であり、AIのアルゴリズム、経済力、国力に欠かせない燃料だ」。昨秋ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿でそう訴えたのは、トランプ前政権で要職を務めたマット・ポティンジャーとデービッド・ファイスだ。
とはいえデータ保護のために中国に強硬措置を取れば、同盟国との関係がこじれ、他国が米テック企業に同様の厳しい措置を取る懸念もある。
そもそもアメリカは、大威張りでデータ保護の道義的戦いの旗を振れる立場にはない。疑うことを知らない市民から膨大な情報を収集し、ビジネスや国防に利用する──この手法を編み出したのは、アメリカの情報機関とシリコンバレーのかつての新興テック企業の面々だ。
フェイスブック、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、アップルは、利用者データの蓄積と取引という巨大産業をリードしている。アメリカ人の情報を中国の収奪から守りたいなら、まずはシリコンバレーの収奪から守るべきだろう。
アメリカが中国に過剰反応すれば、各国がデータ規制を強化し、「デジタル版バルカン化」というべき分断状況を招きかねない。「ネット上の自由は米経済に大きな恩恵をもたらしている。中国への過剰反応で、その自由が奪われないか心配だ」と、米シンクタンク「情報技術イノベーション財団」のナイジェル・コーリーは言う。
今後数カ月、ビッグデータに関する中国の動きにどう対応するかは、アメリカの外交政策で最も厄介な問題の1つになっている。長期的には最も重大な問題の1つかもしれない。