最新記事

ビッグデータ

アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発

THE BATTLE OVER BIG DATA

2022年11月17日(木)15時01分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

221122p42_CDT_05.jpg
221122p42_CDT_04.jpg

BGIの移動式実験室 VCG/GETTY IMAGES

対中強硬派は、中国のデータ収集がアメリカの国家と経済の安全保障を脅かすと主張。アメリカに進出しているテクノロジー関連の中国企業を広く調査すべきだと、バイデン政権に訴えている。

この手の脅威を見過ごせば、アメリカの経済・軍事・通商上の利益が損なわれ、市民は中国のスパイ活動と世論操作の餌食にされかねないと、彼らは主張する。

対中強硬派の圧力は効果を上げているようだ。商務省関係者が本誌に明かした話では、同省は中国など外国の敵対勢力と関係があるテック企業の調査を少なくとも4社に対して行い、さらに対象を広げる予定だ。

ネットは中国を変えなかった

バイデン政権はコメントを控えているが、米議会では党派を超えてこの問題への関心が高まっている。エバニナは昨年8月に上院情報特別委員会で、「アメリカの成人の推定80%は中国共産党に個人データの全てを盗まれ、残り20%は大半を盗まれている」と警告した。

「データは21世紀の石油であり、AIのアルゴリズム、経済力、国力に欠かせない燃料だ」。昨秋ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿でそう訴えたのは、トランプ前政権で要職を務めたマット・ポティンジャーとデービッド・ファイスだ。

とはいえデータ保護のために中国に強硬措置を取れば、同盟国との関係がこじれ、他国が米テック企業に同様の厳しい措置を取る懸念もある。

そもそもアメリカは、大威張りでデータ保護の道義的戦いの旗を振れる立場にはない。疑うことを知らない市民から膨大な情報を収集し、ビジネスや国防に利用する──この手法を編み出したのは、アメリカの情報機関とシリコンバレーのかつての新興テック企業の面々だ。

フェイスブック、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、アップルは、利用者データの蓄積と取引という巨大産業をリードしている。アメリカ人の情報を中国の収奪から守りたいなら、まずはシリコンバレーの収奪から守るべきだろう。

アメリカが中国に過剰反応すれば、各国がデータ規制を強化し、「デジタル版バルカン化」というべき分断状況を招きかねない。「ネット上の自由は米経済に大きな恩恵をもたらしている。中国への過剰反応で、その自由が奪われないか心配だ」と、米シンクタンク「情報技術イノベーション財団」のナイジェル・コーリーは言う。

今後数カ月、ビッグデータに関する中国の動きにどう対応するかは、アメリカの外交政策で最も厄介な問題の1つになっている。長期的には最も重大な問題の1つかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 5
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 6
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 8
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 9
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 10
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中