アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発
THE BATTLE OVER BIG DATA
1990年代に普及し始めたインターネットは当初、民主主義を後押しすると考えられていた。ロシアや中国のような権威主義国家には、デジタル情報の流れを止める力があるという見方は皆無に近かった。2000年3月、当時のビル・クリントン米大統領はこう言った。
「インターネットがアメリカをどれだけ変えたか、私たちは知っている。中国をどれだけ変えるか想像してみよう」
だが、その期待は外れた。中国は90年代後半から2000年代初頭にかけて、ネット検閲・情報統制システム「グレートファイアウォール」の構築を開始。中国本土で送受信するデータの検閲と、特定のアドレスやドメイン名との接続をブロックできるようにした。
中国の産業スパイ活動も新時代に突入した。08~13年、中国人ハッカーは米企業のサーバーに侵入し、年間2000億~6000億ドルともいわれる知的財産を盗んだ。
最も有名なのは、米国防大手ロッキード・マーティンが4000億ドルかけて製造した最新鋭戦闘機F35の設計図を盗み出した事件だ。その数年後に登場した中国のステルス戦闘機J31(殲31)は、F35に酷似していた。
標的は技術から個人情報へ
13年に国家主席に就任した習近平(シー・チンピン)は、インターネットを「世論闘争の主戦場」と位置付けた。ネット上のコンテンツを監視・検閲する技術に巨額の資金をつぎ込み、規制を容易にする新法を作り、違反者を罰するキャンペーンを強力に推し進めた。
さらに習指導部の中国はこれらの技術を利用して、新しいタイプのオーウェル的監視国家を構築した。当局は自国民の(最近は他国民についても)膨大な量のデータを蓄積し、それを使ってさまざまな社会統制の手法を試している。
例えば「天綱」と呼ばれる大規模な監視システム。これはパターン認識技術を利用した顔認証や歩行分析などを通じて、個人を特定・追跡するものだ。
習の産業高度化戦略「中国製造2025」では、データの支配が中国の野望実現のカギとされている。「ビッグデータ技術を制する者は、発展の資源と主導権を握ることができる」と、習は就任直後に中国科学院で語っている。
その後、中国人ハッカーは産業・軍事技術の窃盗から、外国の個人情報収集へと活動を拡大し始めた。18年には、人民解放軍とつながりのあるハッカーが米ホテルチェーン大手マリオット・インターナショナルのサーバーに侵入し、5億人分の顧客情報を盗み出した。
15年には米連邦人事管理局から、現役または元職員400万人以上のファイルを奪った。流出したデータには、最高機密へのアクセス権を持つ職員の背景調査に関する情報が含まれていた。