最新記事

ビッグデータ

アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発

THE BATTLE OVER BIG DATA

2022年11月17日(木)15時01分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

1990年代に普及し始めたインターネットは当初、民主主義を後押しすると考えられていた。ロシアや中国のような権威主義国家には、デジタル情報の流れを止める力があるという見方は皆無に近かった。2000年3月、当時のビル・クリントン米大統領はこう言った。

「インターネットがアメリカをどれだけ変えたか、私たちは知っている。中国をどれだけ変えるか想像してみよう」

だが、その期待は外れた。中国は90年代後半から2000年代初頭にかけて、ネット検閲・情報統制システム「グレートファイアウォール」の構築を開始。中国本土で送受信するデータの検閲と、特定のアドレスやドメイン名との接続をブロックできるようにした。

中国の産業スパイ活動も新時代に突入した。08~13年、中国人ハッカーは米企業のサーバーに侵入し、年間2000億~6000億ドルともいわれる知的財産を盗んだ。

最も有名なのは、米国防大手ロッキード・マーティンが4000億ドルかけて製造した最新鋭戦闘機F35の設計図を盗み出した事件だ。その数年後に登場した中国のステルス戦闘機J31(殲31)は、F35に酷似していた。

標的は技術から個人情報へ

13年に国家主席に就任した習近平(シー・チンピン)は、インターネットを「世論闘争の主戦場」と位置付けた。ネット上のコンテンツを監視・検閲する技術に巨額の資金をつぎ込み、規制を容易にする新法を作り、違反者を罰するキャンペーンを強力に推し進めた。

221122p42_CDT_07.jpg

習近平はインターネットを「世論闘争の主戦場」と位置付ける XINHUA/AFLO

さらに習指導部の中国はこれらの技術を利用して、新しいタイプのオーウェル的監視国家を構築した。当局は自国民の(最近は他国民についても)膨大な量のデータを蓄積し、それを使ってさまざまな社会統制の手法を試している。

例えば「天綱」と呼ばれる大規模な監視システム。これはパターン認識技術を利用した顔認証や歩行分析などを通じて、個人を特定・追跡するものだ。

習の産業高度化戦略「中国製造2025」では、データの支配が中国の野望実現のカギとされている。「ビッグデータ技術を制する者は、発展の資源と主導権を握ることができる」と、習は就任直後に中国科学院で語っている。

その後、中国人ハッカーは産業・軍事技術の窃盗から、外国の個人情報収集へと活動を拡大し始めた。18年には、人民解放軍とつながりのあるハッカーが米ホテルチェーン大手マリオット・インターナショナルのサーバーに侵入し、5億人分の顧客情報を盗み出した。

15年には米連邦人事管理局から、現役または元職員400万人以上のファイルを奪った。流出したデータには、最高機密へのアクセス権を持つ職員の背景調査に関する情報が含まれていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

与野党7党首が会談、トランプ関税への対応巡り

ビジネス

日本の成長率、米関税で下方修正必至 利上げは1%で

ビジネス

独鉱工業受注、2月は前月比横ばい 予想外に停滞

ビジネス

米関税の影響は今期業績見通しに織り込まず、精査急ぐ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 2
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 5
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 6
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 7
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 8
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 9
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中