アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発
THE BATTLE OVER BIG DATA
17年には信用調査機関エクイファックスから、1億4800万人のアメリカ市民(つまり成人のアメリカ人のほぼ全員)の名前や誕生日、社会保障番号を含む個人情報を盗んだ。この事件は国家ぐるみで行われた過去最大級の個人情報の窃盗だった。
アメリカ人の個人情報を狙う工作はその後も続いている。ワシントン・ポスト紙が昨年、中国の警察、軍、宣伝工作機関、国営メディアなどが20年初めに作成した政府関連プロジェクト300件の入札書類と契約書をチェックしたところ、ツイッターやフェイスブックのような欧米のSNSから外国人ターゲットのデータを収集するソフトウエアの設計を発注する文書が含まれていた。
その一方で中国は、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)のような通信機器メーカーが世界中で第5世代(5G)通信網のインフラ構築を受注できるように積極的に後押ししてきた。アメリカの法執行機関と情報当局はこの技術が、中国のデータ窃盗をさらに容易にする可能性があると警告している。
マイクロソフトは撤退を決定
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の集計によれば、中国政府は最大750億ドルの補助金、信用枠、減税などの資金援助をファーウェイに提供した。おかげで同社は、ライバルより30%安い価格を武器に世界最大の通信機器企業にのし上がった。
AIの進歩によって、データをめぐる争いはますます重要になっている。AIは国際競争力のカギを握る技術であり、国家安全保障に及ぼす影響も大きいと考えられているからだ。
例えば、標的を狙う誘導ミサイルやドローンの精度をAIによって向上させるなど、兵器の性能アップが期待できる。敵対国の世論を操作したり民主的制度を弱体化させて、軍事大国に新たな攻撃手段を提供することも考えられる。
盗み取った個人データを活用すれば、情報機関が入手したい情報を扱う職に就いていて、しかも経済的に困窮している人物を見つけ出して接触することも可能になるだろう。
AI大国を目指す中国は、2030年までに1500億ドル規模のAI産業を築くために、情報テクノロジーに数十億ドルの資金をつぎ込んできた。しかし、AIの質を左右するのはデータの質だ。機械の知能が正確な予測を導き出せるようにするためには、充実したデータを与えて「訓練」しなくてはならない。
データの戦略的重要性は、中国政府もよく理解しているようだ。中国共産党は既に、データを土地、労働力、資本、テクノロジーと並ぶ重要な生産要素と位置付けている。