アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発
THE BATTLE OVER BIG DATA
「私たちはアメリカ対中国の枠組みでしか考えない傾向があるが」と、エール大学法科大学院ポール・ツァイ中国センターの上級研究員サム・サックスは言う。
「ヨーロッパやインドでは、アメリカによる監視やアメリカ企業による一般市民のデータの利用について懸念が高まっていることを、私たちは失念している」
アメリカ以外の国々のデータプライバシーの専門家の多くは、中国のデータ覇権の脅威に関するアメリカ政府の警告を眉唾ものだと思っている。グーグルのエリック・シュミット元CEOらアメリカのテック業界の大物たちは、米テクノロジー大手を分割したり、データ収集に規制をかけることは中国企業が優勢となる事態を招く恐れがあり、賢明な政策とは言えないと主張してきた。
ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、トランプがTikTokを禁止した20年、フェイスブックがロビー活動に投じた資金は一企業としては最高額だったという。
中国企業への厳しすぎる扱いは、厄介な前例にもなりかねない。世界の国々は自国のデータ保護について等しく懸念を抱いており、米企業に対して同様の厳しい措置を取る可能性がある。
「世界各国で米企業に対し似たような措置を容易に取れるようにするロードマップや青写真が生まれ、結果として逆説的に、第三国の市場において中国企業を利する可能性がある」と、サックスは言う。
アメリカはデータ保護後進国
世界の国々がプライバシーに関する法整備を進めている一方、アメリカでは党派対立とテクノロジー大手による激しいロビー活動のせいで、基本的な消費者データ保護の法律すら制定されていない。そうした消費者保護の仕組みがあれば、アメリカ国内のデータを中国から守る枠組みにも応用できるかもしれないのだが。
アメリカには個人データ移転に関する規制がろくにない。あるのは分野ごと、省庁ごとにばらばらの政策や基準、規制だけだとサックスは言う。
そんななか、アメリカの巨大テック企業は個人データを食い物にし、巨大化してきた。中国がアメリカのデータを収集できるのも、そうした混沌とした状況があるためだ。
おかげでアメリカ人のデータは利用され放題だ。デューク大学サンフォード公共政策大学院のサイバーセキュリティー専門家、ジャスティン・シャーマンが大手データブローカー(消費者の個人情報を基にビジネスをしている企業)10社を対象に調査したところ、アメリカ人の個人情報(人種や年齢、政治的信条や医療関連データ、親族の名前などを含む)を大っぴらに宣伝して売りさばいていたところばかりだった。