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バーチャルリアリティー

オキュラスリフトで未来をのぞく

2016年1月25日(月)17時00分
ウィル・オリマス

 オキュラスVRは、12年に資金調達サイト「キックスターター」で開発キットを購入した支援者全員に、製品版を無償で提供すると発表している。

 実際、ツイッターでリフトの価格に対する怒りが沸き上がるのと同時に、予約サイトには申し込みが殺到した。初回予約分は3月28日に出荷予定だが、数時間出遅れただけで、出荷は5月になる見込みだ。

 ただし、華々しい宣伝に見合う製品でなければ、価格の高さは反動を招きかねない。一足先に製品を手にした(頭にかぶった)人々は、面白くないと思えば怒りをぶちまけるかもしれない。話題の最新ガジェットを買う余裕がない人々の嫉妬は、恨みと冷笑に変わる。そう、グーグルグラスのときのように。

 ディスプレイを頭にかぶる点にも難がある。コンピューター機器で目元を覆うと、非社交的で間抜けな風貌になりがちだ。

 もっとも、この2年間にオキュラスの複数のヘッドセットを試した私に言わせれば、グーグルグラスと同じ運命をたどるとは思いにくい。グーグルグラスは技術的には感銘したが、ユーザー体験としては最初から魅力的ではなかった。

 しかし、リフトを初めて装着して、左、右、上、下と首を動かし、壮観なグラフィクスが目の前に広がったときのあの感覚は、言葉にできない。セガ・エンタープライゼスの家庭用ゲーム機ドリームキャストや、iPhoneを初めて使ったときを思い出した。

 リフトが最初から機能を削って値段を下げていたら、IT業界の歴史的な失敗の再現となっていただろう。任天堂が95年に出した3Dゲーム機「バーチャルボーイ」は約180ドル(日本国内は1万5000円)という手頃な価格に抑えるため、フルカラーディスプレイなどいくつかの特徴を犠牲にした。

 バーチャルボーイは大失敗に終わり、それから10年間、バーチャルリアリティーは冗談のネタのような扱いだった。オキュラスVRは教訓を学んだのだろう。ゲームを楽しめないゲーム機器は、手頃な値段にしても意味はない、と。

© 2016, Slate

[2016年1月26日号掲載]

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