最新記事
健康

最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世代で急増中

DIABETES IN YOUNG PEOPLE

2025年3月27日(木)17時20分
ランジス・ミショー(モントリオール大学眼科教授)
2型糖尿病は、目の合併症を引き起こす可能性もある

2型糖尿病は、目の合併症を引き起こす可能性もある SKT Studio-shutterstock

<50代以降の発症例が多かった「2型糖尿病」がなぜ? 発症年齢が若いと失明のリスクも増大。手遅れにならないよう専門医による定期的な検査を>

16歳のカールはカナダのモントリオール大学の眼科クリニックを初めて受診した。視野の異常を訴えて、このクリニックを紹介されたのだ。検査中に糖尿病が原因ではないかと疑われる兆候が見つかった。彼のかかりつけ医が確認した結果、やはり視野の異常は糖尿病によるものと判明。糖尿病と診断されてカールの世界は一変した。

糖尿病にまつわる気がかりな現実について、眼科医の視点から掘り下げてみよう。


糖尿病は知らないうちに進行する。少なくとも初期段階では、喉の渇き、頻尿、疲労感、体重減少、首や脇の下の皮膚の黒ずみといった症状に気付かないことが多い。

糖尿病には大きく分けて次の2つのタイプがある。1つは血液中の糖を代謝するのに必要なインスリンが分泌されないインスリン依存型(1型)糖尿病。もう1つは、インスリンは分泌されるものの分泌量が不十分だったり、分泌されるインスリンが十分に働かなかったりする、インスリン非依存型(2型)糖尿病だ。1型は幼少期・思春期に発症しやすく、2型は50歳以降に発症するケースが多い。

以上の定義からすれば、カールの目は1型糖尿病の影響を受けていると考えるのが理にかなっている。その場合は医師の治療により病気の進行を適切にコントロールできる。

しかしカールは、かかりつけ医による検査の結果、2型糖尿病と診断された。この診断は常識に反するもので、大きな課題を突き付ける。進行のペース、初期の病状の深刻さ、インスリンの機能や分泌が低下するメカニズムが、未成年の場合は成人患者とは異なる可能性があるからだ。

成人前に2型糖尿病を発症した場合、成人以降に発症する場合に比べて治療・闘病期間が長期に及ぶため、試行錯誤も含めて、治療の選択肢も複雑になる。

眼病リスクは1型以上

だがカールのような状況は例外ではない。特に太りすぎや運動不足の若者の間で2型糖尿病患者が増加している。そうした若い患者の75%近くは親やきょうだいに糖尿病患者がいる。

このことは一見、遺伝が2型糖尿病を発症するリスク要因であることを裏付けるように思えるが、カールの場合は食生活など悪い生活習慣と運動不足によるところが大きかった。こうした原因は家族全員に共通しがちだ。

カールが若くして2型糖尿病を発症したことも、目の合併症のリスクを高める。

ある研究で、22歳未満で糖尿病と診断された米ミネソタ州在住の糖尿病患者1362人のデータを調べた。データは1970~2019年のもので、それによって過去数十年の状況を評価することもできる。

その結果は驚くべきものだった。2型糖尿病の若者は発症から15年以内に糖尿病性網膜症(血糖値の高い状態が続いて眼底にある網膜の血管が傷つく)を発症するリスクが同年代の1型患者の1.88倍。失明の恐れのある「増殖網膜症」のリスクは2.33倍。網膜の黄斑にむくみが起きる黄斑浮腫と若年性成熟白内障のリスクもそれぞれ1.49倍と2.43倍。白内障は外科手術が必要だが、若者の場合は高齢者以上にリスクを伴う。

これらの主要な合併症は失明を防ぐために外科手術を必要とする場合が多い。また、若者の場合は1型よりも2型の患者ではるかに進行が速いため、注意深く経過観察を続けなければならない。実際、2型患者の約2人に1人が2型糖尿病と診断されてから1~8年以内に網膜症を発症する。一方、1型患者の場合は6~10年以内だ。

2型糖尿病の若者は過去10年間に急増しており、50年には症例数が4倍に達するとみられている。この予測は医療従事者はもとより、政策決定者や公衆衛生当局にとっても憂慮すべきものだ。

アメリカの25~44歳の糖尿病患者1人当たりの生涯医療費は、13年の12万5000ドルから増加。15~25歳の患者も加味すれば、それをはるかに上回る額になるだろう。実際、若者の20%が糖尿病を発症するようになれば、その治療のために政府が負担する医療費は何百万、ひょっとすると何十億ドルにも達しかねない。

生活習慣の改善も効果的

1型糖尿病については発症する原因がまだ完全には解明されていないので、検査で発見しにくく、そのため予防も難しい。

一方、2型は若者の不健康な生活習慣が強く関係している。健康的な食生活と定期的な運動を心がけ、テレビやゲームやスマホの画面を見る時間を制限するなど座りがちな生活を避けることは、若者が糖尿病を発症するのを予防したり遅らせたりするのに有効な方法だ。言い換えれば、健康的なライフスタイルを奨励するべきで、特に家族全員が共有しなければならない。

目については、定期的に検眼医や眼科医を受診すれば、糖尿病の合併症の初期の兆候(糖尿病と診断されて間もない患者の最大30%に見られる)を発見することが可能だ。こうした専門医は網膜症以外にも糖尿病が原因で起きる目のトラブルも発見できる。例えば、遠近調節ができない、眼の筋肉が部分的に麻痺して物が二重に見える、角膜表面の傷が治りにくい、ドライアイや緑内障などだ。

糖尿病と診断されたらすぐに目の検査を行うべきだ。家族に糖尿病患者がいる、肥満、座っている時間が長いなど高リスク群の人なら誰でも検査を受けるべきだ。

糖尿病の治療には健康的な生活習慣が必要不可欠。カールも今から生活習慣の改善に努めれば、病気の進行を抑えてより健康に暮らすことができる。ただし、そのためにはかかりつけ医による定期的な経過観察を受け、まめな検眼を心がけることが大切だ。

The Conversation

Langis Michaud, Professeur Titulaire. École d'optométrie. Expertise en santé oculaire et usage des lentilles cornéennes spécialisées, Université de Montréal

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落、円高など嫌気 売買代金は今

ワールド

北京の米国料理店、豪州産牛肉に切り替えへ 貿易戦争

ビジネス

3月コンビニ既存店売上高は前年比2.7%増、2カ月

ビジネス

中国から米ボーイング機返送、2機目がグアム着=飛行
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 9
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中