顔の「お直し」で人は本当に幸せになれるのか?
Plump Lips and Wellness
誰もが手軽に美容整形を受けられる時代、美しさのハードルは上がる一方だ ILDAR ABULKHANOV/ISTOCK
<「ウェルネス」の延長線上になった美容整形。しかし、自尊心を高める効果はあっても、心の健康・幸福感にはつながらないという研究も。そもそも「美の基準」を決定しているのが「他者」であるという問題が>
美容整形の目的は外見を変えること──のはずが、心の治療として体の改造を推すセレブや医師、経験者は少なくない。
世界的に有名なブラジルの美容外科医イボ・ピタンギはかつて、「美容整形は軽薄な行為ではなく、自尊心の再構築であり回復だ」と述べた。
テキサス州のとある美容クリニックの宣伝文句を借りるならば「整形は自分への愛」。そして、最近はこうした考え方が世間にあふれている。
美容整形に関する論文の多くが、施術は「喜びと満足感と自尊心を高める」と主張する。メディアは10代の少女の心の健康と絡めて整形を肯定し、企業のブランド戦略と広告がさらに流行を後押しする。
メスを使わないプチ整形専門の美容外科チェーン、アルケミー43に言わせれば「最高のルックスと気分を手にする資格は万人のもの」なのだ。
こうした風潮を受け、整形は今や「ウェルネス」の延長線上にある。体の改善が心の健康につながるというのだ。
鼻をいじったくらいで心が健やかになるとは思えないかもしれない。だが「あごの線がもう少しシャープならもう少し幸せになれるのに」といった願望は、誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。場合によっては整形に自信を高める効果があることは、科学的に証明されている。
2018年に専門誌「皮膚科外科手術」で発表された研究で、ペンシルベニア大学病院のジョセフ・ソバンコ准教授の研究チームはしわやたるみを補正する注入治療が自意識に及ぼす影響を調べた。
75人を対象に、施術の前と後で自分のボディーイメージに対する満足度を調査。「デリフォード外見尺度」を使用し、「海水浴に行くと、どの程度気分が沈みますか?」といった質問に答えてもらった。すると被験者の実に75%で、術後の満足度が上がった。
「私には誇れるものがあまりない」といった記述への反応を見る「ローゼンバーグ自尊感情尺度」を使い、自己肯定感も測定した。こちらは施術の前後で変化はなかった。