最新記事

美容整形

顔の「お直し」で人は本当に幸せになれるのか?

Plump Lips and Wellness

2022年8月19日(金)14時41分
エレノア・カミンス

このデータはさまざまな解釈が可能だ。美容整形を求める人は自己肯定感の問題を抱えていないと、捉えることもできる。ローゼンバーグ自尊感情尺度において被験者が施術前から24.7点(30点満点)という高い平均値を出していたことは、注目に値する。

あるいはメスを使わない施術も含め、整形は極めて個人的でありながら社会的・商業的影響も免れないボディーイメージに作用するとも解釈できる。

論文によれば、ボディーイメージは施術への期待度に左右された。劇的な若返り効果を期待した人は失望し、そこまで期待しなかった人は最終的な満足度が高かった。

自己肯定感とボディーイメージ、すなわち「自分に対する自信」と「外見に対する自信」を切り離して調べた点で、この研究は示唆に富む。外見を変えれば外見への自信は高まるかもしれないが、全体的な幸福感は必ずしも高まらない。高まった場合も、因果関係の連鎖は複雑だ。

「外見=人格」の風潮

美容整形で内面も変えられるという発想は現代的だと、哲学者のヘザー・ウィドウズは『完璧な私/倫理的理想としての美』(プリンストン大学出版局刊)で指摘した。

19世紀の人々は短気を直したい、信仰を深めたいといった向上心を日記に書いた。ところが現代人は男女共に、より滑らかな肌や細い体など外見の向上を重視する。

過去1世紀のある時点で、外見は事実上人格になったとウィドウズは書く。つまり見た目の改善は今や道徳的義務であり、重大事であり、自分に備わった善良さを他者に伝える手段なのだ。

だが周知のとおり、「ナイスボディー」のハードルは恐ろしく高い。「外見=人格」という考え方は生活の隅々に浸透し、人はよき社会人、よき配偶者、よき親であるには美しくなければいけないというプレッシャーを感じている。

これは個人の責任ではない。モノとサービスとイメージが絡み合ったシステムが、そう仕向けているのだ。

「美容の力で補える自信は、美の基準によって奪われた自信のみだ」と美容ライターのジェシカ・デフィーノは言う。基準を決めるのは、主に美容製品を売る人間と企業である。

薄い唇に自信がない人は、プチ整形で唇をふっくらさせることで自信が持てるかもしれない。だがそれはそもそも薄い唇が、社会で恥ずかしいものとされているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中