イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レディパーツ！』が描く新しいムスリム女性像

イギリスのムスリム社会と「多様性」

バンドメンバーが繰り返し口にするのは、「白人至上主義」への憤りであり、自分たちのような「黒（ブラック）」や「茶（ブラウン）」に活動の場を与えることでイギリスは多様性を尊重しているとうそぶく人々への反感である。この背景には同国のエスニシティをめぐる事情がある。

イギリス国家統計局の2021年国勢調査によると、イングランドとウェールズの人口約6千万人の81.7%は「白人」で占められている。「アジア系」（9.3%、主にインド・パキスタン系）や「黒人」（主にアフリカ系・カリブ海系、4.0%）は圧倒的少数派である。ムスリムの場合、宗教の点でもマイノリティである。同じくイングランドとウェールズの人口に占めるムスリムの割合は6.5%で、キリスト教徒（46.2%）や無宗教（37.2%）に比べてはるかに少ない。

390万人ほどと言われるムスリム人口の民族構成は多様性に富み、南アジア系の割合がもっとも多く、アフリカ系やアラブ系がそれに続く。国勢調査は10年ごとに実施されるが、過去20年の数値と比べて顕著なのが、イギリス生まれのムスリムや、イギリス人アイデンティティをもつムスリムの割合が増えていることである。

アフリカ系、南アジア系、といった異なる地域出身のムスリムのキャラクターやファッションの違いなど、ムスリム社会内の多様性も描いている『絶叫パンクス　レディパーツ！シーズン２』© WTTV Ltd 2024.

2021年の調査によると、ムスリム全体の51%以上がイギリス国内で出生し、75％が自身をもっぱらイギリス人だと認識しているという。さらに、9割以上が英語を流暢に話し、3割以上は大卒レベルの資格を取得するなど、教育達成度も目に見えて上昇している。その一方で、ムスリム家庭は他の宗教集団に比べて都市貧困地域に多く、社会的地位の上昇率が低いという分析もある（参考：英国ムスリム評議会「2021年国勢調査：イギリスのイスラム教徒──公正への努力」）。

本作にも、南アジア系のサイラやアミーナ、アフリカ系のビズマとその家族、アラブ系のアイーシャとアッサンなど、異なるエスニシティのムスリムが登場している。みな英語がネイティブで、おそらくは自身をもっぱらイギリス人だと考えている。

シーズン2で博士号を取得するアミーナや、大学院で人類学を専攻するアッサンは、「アジア系」や「ムスリム」が到達可能な教育レベルの高さを示している。他方、サイラやアイーシャの生活を含めて、若者の暮らしが楽ではないことも伝わってくる。