「70年代が蘇る...」ロック青春映画『ペニー・レイン』がブロードウェイで復活
The Power of Music
ウィリアム役に抜擢されたケイシー・ライクスは、「映画で目立たなかったキャラクターも、ミュージカルでは見せ場がある」と説明する。
ライクスは当初、ウィリアムを映画版とそっくりに演じなければというプレッシャーに苦しんだ。だがあるとき「ふとキャメロンを手本にすればいいんだと思い直し、それが突破口になった」。
そんな若者にクロウは記者時代の体験談をいくつも語り聞かせ、ライクスはクロウのしぐさや「彼が人に与える印象」を役作りに生かした。
クロウは姉に話を聞いて、70年代を振り返った。「映画で描いたほど当時の生活は甘くなかったと気付き、そこから脚本や劇中歌が育っていった」と彼は語る。
舞台ならではの臨場感
いい舞台はいい音楽に似て、出演者と観客を強い感情の絆で結ぶ。「だからこそ人は失恋すると音楽に救いを求めるのだし、音楽は失恋の痛みに効く」と言うのは、ウィリアムの母エレイン役のアニカ・ラーセン。
「ミュージカル俳優は、演じながら感情の高みに上り詰める。そこではもはや言葉で思いを語ることができないから、思いを歌に託すの」
作曲を担当したトム・キット(『チアーズ!』)は、クロウを「普段着の詩人」と呼ぶ。「彼の映画は私の心にずっと響いてきた。人間らしさと人間同士の結び付きを、クロウは教えてくれる」
音楽業界を取材しながら自分を発見していくウィリアムと並行して、ロックバンド、スティルウォーターの旅路が描かれる。憧れの人に囲まれる新人の苦労はよく分かると、ライクスは言う。
「ウィリアムは尊敬の対象だったミュージシャンと、いきなり行動を共にすることになる。リハーサル初日に、僕は有名なブロードウェイ作品のプログラムがデザインされたリュックを背負っていった。リハーサル室に入ってぎょっとした。そこにいた人の半数は、そういう舞台に出たことのある大先輩だったんだ」
ウィリアムは「初めての体験」の象徴だと、ライクスは分析する。「夢がかなった瞬間、何年もやりたいと思っていたことができた瞬間は、誰もが覚えているよね」
演出のヘリンは「大人になりつつある若者が、人生の分かれ道でどんな人間になりたいのかを問われる。万人が共感できる物語だ」と語る。
『あの頃ペニー・レインと』はファンであることへの、そして音楽を純粋に、なりふり構わず愛す人々へのラブレター。普段交わることのない人と人とを結ぶ音楽の力を表現した物語でもある。
伝説のロック評論家レスター・バングスに扮したロブ・コレッティによれば、「キャメロン・クロウは過去40年間、人間らしさとは何かを模索してきた。カリスマとあがめられるのには理由がある」。
ミュージカルの観客には映画版を見たときの感動を、生の舞台ならではの臨場感と共に味わってほしいと、コレッティは期待する。
エレイン役のラーセンいわく、クロウと一緒にいると「彼の映画に出ている気分になるの」。そんな臨場感を体験できたら、最高だろう。