最新記事

音楽

成熟し、進化を遂げるサウンド──夜更けが似合うアークティック・モンキーズの新アルバム

Another Change in Direction

2022年12月2日(金)12時44分
デービッド・チウ
アークティック・モンキーズ

待望の新作『ザ・カー』も前作に続いて期待を鮮やかに裏切るサウンドが詰まっている ZACKERY MICHAEL

<音源をCDに焼いてライブで配り、インターネットで口コミで広がったことは、今や伝説に。結成20年を迎え、エレガントな新作はさらなる進化を感じさせる>

2018年、アークティック・モンキーズが通算6枚目のスタジオアルバム『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』をリリースすると、ファンはその変貌に仰天した。

アークティック・モンキーズといえば、ハードなギターがトレードマークのロックバンドだった。それが『トランクイリティ』ではバート・バカラックやビーチ・ボーイズを連想させるサイケやラウンジポップを取り入れ、ギターよりもピアノを前面に出したのだ。

だが劇的な方向転換にもファンの気持ちは揺らがなかったようで、『トランクイリティ』は前5作に続き、イギリスのヒットチャートで1位を獲得した。

次は元のサウンドに回帰するのではと、ファンは期待したかもしれない。だがそうした期待に縛られず、さらなる進化を遂げようとするイギリス・シェフィールド出身4人組──アレックス・ターナー(ボーカル・ギター)、マット・ヘルダーズ(ドラム)、ニック・オマリー(ベース)、ジェイミー・クック(ギター)──の決意は固い。

10月21日に発表された7枚目の『ザ・カー』にも、『トランクイリティ』の夜更けが似合うサイケデリックでエレガントな雰囲気は引き継がれた。今回はストリングスとホーンを使い、前作よりも緩やかで、浮遊感と広がりのあるサウンドに仕上がっている。

「新作に取り掛かるときは、前とは全く違う音楽をつくろうと意気込む」と、フロントマンのターナーは語る。

「でも新しいアルバムができてみると、前の作品が溶け込んでいることに気付かされる。こうして『ザ・カー』をつぶさに振り返ると、つくづく前作の影響を感じるよ。今までしてきたことから離れようとしても、過去の余韻は残る。それが未踏の地を目指す僕らの足を引っ張らなければいいのだが」

「別れ」の表現も型破り

プロデュースは、ハイムやフォールズなどを手掛ける盟友ジェームズ・フォードが担当した。一聴すると(『ヤング・アメリカンズ』から『ステイション・トゥ・ステイション』時代の)デヴィッド・ボウイ、セルジュ・ゲンズブール、ニック・ケイブ、スコット・ウォーカーに1970年代のR&Bやポップ色が強いグラムロックが思い浮かぶ。

それでもやはり、これは紛れもなくアークティック・モンキーズのサウンドだ。

「最近はほかのアーティストと自分の間に線を引くのが、前より難しくなった気がする」と、ターナーは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米11月ISM非製造業総合指数52.1に低下、価格

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中