成熟し、進化を遂げるサウンド──夜更けが似合うアークティック・モンキーズの新アルバム
Another Change in Direction
「長年吸収してきた音楽が、アルバム作りに影響しているのかもしれない。影響といってもメンバーと『よし、これに似た曲を作ろう』と話し合って決めるのではなく、もっとさりげない形で入り込んだもの。捉えどころのない影響とでもいうのかな」
『トランクイリティ』は月面のホテルを舞台とするSF風のコンセプトアルバムだったが、『ザ・カー』のミステリアスな歌詞に一貫したテーマは見られない。
ターナーは「全編を貫くテーマや感触はあると思うが、それは歌詞に限った話ではないんだ」と説明する。
「むしろ言葉は一旦無視して、音の感じに意識を集中したほうが、テーマはつかみやすい。歌詞は時として、音に追随するものだから。今回は1曲目の冒頭のインストゥルメンタルを、最初に書いた。残りの歌詞と曲は全部その後で作ったから、イントロが喚起するイメージが全体に波及していると思う。10曲を脈絡なく並べただけだと言うつもりはないが、これがアルバムのテーマだと一言で説明することはできない」
第1弾シングルの「ゼアド・ベター・ビー・ア・ミラーボール」は、ゴージャスなストリングスとピアノの中に物憂い雰囲気が漂う。ターナーが切なく歌うのは、謎めいた男のつぶやきだ(「車の所まで送ってくれるなら、僕の沈んだ気持ちを察してほしい/そこには絶対にミラーボールが欲しい」)。
「この歌詞の先には、明らかに別れが待っている」と、彼は解説する。
「別れの予感がする場面にいきなりミラーボールが登場するわけだが、僕の頭の中ではあまり違和感がない。ミラーボールはショーの幕引きとか、そうした終わりの象徴なのかも。誰かのスーツケースを車まで運んでいくと急に照明が替わってミラーボールが回転する様子が、歌詞を書いていて脳裏に浮かんだんだ」
「ミスター・シュワルツ」は美しいアコースティックギターのピッキングで始まる。映画の撮影中の一場面を思わせる歌詞は、アルバム全体の映画のような雰囲気にはまっている。
「制作の舞台裏をのぞいているような感覚だ」と、ターナーは言う。
「この曲だけではない......全ての曲を通じて、1つの作品の制作が進行しているような感覚を味わえる。どこかにクリップボードを持った人がいて、そう離れていないところで誰かがはしごに足をかけている。ミスター・シュワルツのような人は、僕の現実の生活に確かに存在していて、でも曲の登場人物として受け入れられている」
先行シングル第2弾の「ボディ・ペイント」は、収録曲の中で最も大胆かもしれない。豪華なオーケストラ風の演奏からエレキギターが炸裂する瞬間があり、ターナーのボーカルは、70年代にソウルに傾倒していた頃のボウイを彷彿させる。