最新記事

映画

高級ホテルでの情欲と麻薬の一夜...バイデン親子がモデルのトンデモ妄想映画

A Conservative Fairytale

2022年9月28日(水)17時45分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『わが息子ハンター』

セックスとコカインに溺れる放蕩息子ハンター UNREPORTED STORY SOCIETY

<右派メディア「ブライトバート・ニュース」が配信する映画『わが息子ハンター』は、大統領選の結果さえ改変してしまうおとぎ話>

「政治は文化の下流にある」。かつて保守派ジャーナリストのアンドルー・ブライトバートはこう述べ、政治を変えるにはまず文化を変えなければいけないとほのめかした。

2012年に彼が死去すると、その名を冠した右翼メディアサイト「ブライトバート・ニュース」のトップに、極右の陰謀論者にして後年ドナルド・トランプ前大統領の上級顧問を務めることになるスティーブ・バノンが就任。以来10年、この言葉が持つ意味と重みは大きく変わった。

極右ニュースネットワークの台頭とSNSで拡散されるデマをバックに、右派メディアは今や独自の生態系を築いている。ニュースと娯楽は1つの流れとなり、多くの共和党支持者の元に届く。そこにはもはや上流も下流もなく、臆測と矛盾だらけのプロパガンダがぐるぐる回っている。

9月、ブライトバートは映画の配信・ダウンロード事業に進出し、オリジナル映画第1弾として『わが息子ハンター』をリリースした。現職アメリカ大統領ジョー・バイデンの次男をめぐる風刺劇だ。

ハンター・バイデンにはスキャンダルが多い。20年10月には、彼のものとされるパソコンから不正なビジネスや未成年の少女との不適切な関係を裏付ける証拠が発見されたと報じられた。鑑定の結果、税務処理の不正をうかがわせるファイルなどが「本物」とされた一方、何者かによる情報操作も疑われている。

製作費250万ドルをクラウドファンディングで調達した『わが息子』は、この「パソコン疑惑」を取り上げる。

「実話ではありません。でも事実です」

冒頭、ジーナ・カラーノ演じる大統領護衛官が観客に語りかける。「これは実話ではありません。でも事実です」

カラーノは昨年、解雇騒動で名をはせた人物。ワクチンの接種義務やBLM(黒人の命は大事)運動を揶揄したり、保守派をホロコーストの犠牲者になぞらえたりしたSNSの投稿が問題視され、ディズニープラスのドラマ『マンダロリアン』を降ろされたのだ。

映画はハンターがロサンゼルスの高級ホテルで繰り広げる、セックスとコカインの一夜を中心に展開する。中盤までは、麻薬漬けで妄想癖があるがどこか憎めないハンターが主人公だ。

演じるローレンス・フォックスは王立演劇学校(RADA)に学び、ロバート・アルトマンの作品にも出た英国の実力派。だが最近は本業より「極端な政治的潔白(PC)」への抗議で目立つ。コロナ禍の都市封鎖や多様性に対する発言で物議を醸し、昨年はロンドン市長選に出馬して1.9%の得票率で敗退した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中