高級ホテルでの情欲と麻薬の一夜...バイデン親子がモデルのトンデモ妄想映画
A Conservative Fairytale
薄っぺらい悪人と告発者しかいないキャラクターの中で、少しでも深みのある人物はハンター1人。ドナルド・トランプJr.を思わせるどら息子だが、父親が重んじる家族の名誉を必死で守ろうとする。
ジョー・バイデン役は、1980年代のメロドラマ『ダイナスティ』が代表作のジョン・ジェームズ。出番は息子より少ないが、物語を動かすのは大統領とその陰謀だ。
映画の中のバイデンはまぬけな老いぼれだが、世界を操る策略家でもある。簡単な会話もおぼつかないのに、陰では大国の首脳を手玉に取っているのだから、不思議な話だ。
自他共に認める保守派のロバート・ダビ監督は、今回アダム・マッケイ監督(『バイス』)の作風を模倣したらしい。スピーディーに切り替わるマッケイ風の映像に陰謀論を盛り込み、「真実」を見ろと観客に迫る。
鬱病で薬物依存の男が高級ホテルでくだを巻くだけの話だと思ったら、大間違い。男は世界で最も邪悪な一家の御曹司なのだ。
増える右派メディアによる映画製作
ハンターの裏の顔を浮かび上がらせるのは、ストリッパーのキティだ。リベラルだったはずのキティはハンターの話を聞いた後、バイデン帝国の悪行を暴くことを決意する。
その彼女にハンターのボディーガードのタイロンが、バイデン家について探るなら主要メディアではなく右翼サイトがいいと入れ知恵する。
タイロンは唯一の黒人キャラだ。黒人が右翼サイトを推す皮肉をキティに指摘されると、「私は白人至上主義の黒人代表なんだ」と自嘲する。そうしたサイトでキティがどんな情報を見つけようが偏向しているはずはない、何しろ黒人が薦めたのだから、とでも言いたげな一コマだ。
映画に参入する右派メディアはブライトバートだけではない。FOXニュース傘下の配信サービスFOXネーションは、初のオリジナル映画となるラブロマンス『シェルコレクター』を公開した。右派サイトのデイリー・ワイヤーは今年3本のオリジナル長編を配信し、うち1本には前出のカラーノが主演している。
ターゲットは保守思想に染まった層だろう。共和党はトランプ政権時代に、新たに有権者を引き入れる必要がないと気付いた。右派向けのメディアを充実させ、今いる支持者を囲い込めば十分だ。
『わが息子』は途方もない夢物語で終わる。トランプの盟友ルディ・ジュリアーニがパソコンの中身を暴露し、バイデン一家の国際的陰謀を白日の下にさらす。そして、20年の大統領選でトランプが再選されるという「もう1つの歴史」が描かれるのだ。
エンドロールの直前、キティが観客に向かって甘い声でささやく。「真実が、おとぎ話に変わったのかもね」
真実をこんなおとぎ話に変えられるなら、右翼メディアは大喜びだろう。
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