コメディー映画『ドント・ルック・アップ』が描く、強烈にリアルな「彗星衝突」危機
A Prescient Warning
ディカプリオ扮する天文学者ミンディ(左)らは大惨事を防ごうと奮闘 NIKO TAVERNISE/NETFLIX
<ディカプリオ主演『ドント・ルック・アップ』が暗示する、気候変動問題をめぐる政治の怠慢とIT長者たちの傲慢>
昨年末のクリスマス休暇に合わせてネットフリックスが配信した映画『ドント・ルック・アップ』(アダム・マッケイ監督)は、もちろんコメディーだ。楽しくなければ新年を迎えられないから、それは当然。でも、実は腹を抱えて笑える話ではなかった。
巨大彗星が地球に激突するリスクが高まっていて、その深刻な危機に気付いた天文学を研究する大学院生ケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)と教授ランドール・ミンディ(レオナルド・ディカプリオ)が、ホワイトハウスに出向いて米大統領のジャニー・オルレアン(メリル・ストリープ)に進言する。だが当然、信じてはもらえない。
首席補佐官を務める大統領の息子はまるで無関心だし、大統領自身も、中間選挙を控えている時期に縁起でもない話をしないでくれと一蹴する。対策はできているとNASA惑星防衛調整室のテディ・オグルソープ長官(ロブ・モーガン)が言っても、大統領は中間選挙が終わるまでは「動くな」と命ずる。
こんな展開を見れば、評論家の多くがこの映画に、気候変動に対するアメリカ政府の無知・無関心への鋭い批判を感じ取ったのは当然だろう。なにしろ今はネット上にあふれる無責任な言論が科学的な真実を覆い隠し、その状況を利用して政治家や財界人が私服を肥やしている時代。そんな風潮に、人気俳優を起用した映画で一矢報いるという発想は、まあ悪くない。
大富豪が地球を救う?
でも、この映画をアメリカの気候変動政策に対する辛辣なパロディーと決め付けるのは間違いだ。それではもっと深刻な、ちょっと気取った言い方をすれば「人類の直面する実存的危機」の問題が見えなくなる。
もちろん気候変動は重大な危機だが、核兵器の拡散や人工知能(AI)の暴走も、そして巨大彗星の衝突も人類の存亡に関わる深刻な危機だ。新型コロナよりずっと致死的なウイルスが出現する可能性だって否定できない。
実を言うと『ドント・ルック・アップ』は、こうした実存的危機に対して私たちがいかに準備不足で無防備かをリアルに描いている。また、危機に際して決断を(科学者ではなく)政治家や実業家に委ねることの危険性も指摘する。
この危険性を体現するのが、本作に登場するシリコンバレーの大物、ピーター・イッシャーウェルの存在だ。地球に突進してくる彗星がスマートフォンや半導体の製造に不可欠な「32兆ドル相当の資源」を含んでいることを知った彼は、核兵器で彗星を破壊するというNASAの作戦を中止するよう、大統領に進言する。その結果、政府はイッシャーウェルの会社「バッシュ」と手を組んで、彗星を砕いて資源を採取する計画を進める。