コメディー映画『ドント・ルック・アップ』が描く、強烈にリアルな「彗星衝突」危機
A Prescient Warning
イッシャーウェルの言動がとっぴなものに思えないのは、そんな人物はIT業界にはたくさんいるからだ(例えばイーロン・マスクやジェフ・ベゾス)。彼らは本気で、人類を絶滅から救うミッションと自分のビジネスが両立すると信じている。
マスクは火星への移住を可能にし、人類の絶滅を阻止することを人生の目標に掲げており、富の蓄積に励むのはそのためだと公言している。私たちはそうした言動を「狂信的誇大妄想者の戯言(ざれごと)」と一蹴しがちだが、マスクは本気だ。現にケンブリッジ大学生存リスク研究センター(CSER)に1000万ドルを寄付し、その理事となっている。
人類絶滅の阻止を目指すシリコンバレーの大物はほかにもいる。スカイプの共同創業者ヤン・ターリンは、天体物理学者のマーティン・リースと共にCSERを創設した。フェイスブックの共同創業者ダスティン・モスコビッツが創設した組織オープン・フィランソロピーは、人類滅亡に関するシンクタンクのフューチャー・オブ・ライフ・インスティテュートに1000万ドル超を寄付すると発表した。
一方、グーグルの共同創業者ラリー・ペイジは小惑星の資源採掘を目指す新興企業プラネタリー・リソーシズに出資している。小惑星での資源採掘が始まれば金(ゴールド)の価値は下がると読み、今後は金よりも仮想通貨に投資するのが賢い選択だと論じる投資顧問もいる。
現実的な将来の危機を暗示する警告
小惑星での資源採掘について、マスク本人は言葉で語らないが、行動で語っている。2020年、彼が率いるスペースXはNASAの小惑星探査計画「サイキ」の契約を勝ち取った。その狙いは、大きな利益をもたらす重金属がぎっしり詰まった小惑星を「研究」することだという。
そしてハーバード・スミソニアン天体物理学研究所のマーティン・エルビスらは、企業利益の追求と惑星防衛の任務が両立不能とは限らないと論じている。理屈の上ではそのとおりかもしれない。しかし、もしも両立しなかった場合にはどうなるのか。
『ドント・ルック・アップ』が描くのは、まさにそうしたシナリオだ。
マッケイ監督は本作で、科学的な専門知識を過小評価することのリスクを強調し、さらに「いいことをしたい」という純粋な思いと「利益を上げたい」という思いを区別することがいかに難しいかを示してもいる。
本作が描き出すのは、私たちの意思の弱さや、テクノロジーこそが私たちを守ってくれるという素朴で純真だが根拠なき思い込みだ。
映画にエンディングがあるように、私たちの地球もエンディングに向かっているのかもしれない。それなのに私たちは尊大な億万長者を許し、腐敗した政治家を許している。そして気候変動や小惑星衝突のような実存的危機に、相変わらず背を向けている。
©2021 The Slate Group
DON'T LOOK UP
『ドント・ルック・アップ』
監督╱アダム・マッケイ
主演╱レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス
ネットフリックスで独占配信中