最新記事

映画

コメディー映画『ドント・ルック・アップ』が描く、強烈にリアルな「彗星衝突」危機

A Prescient Warning

2022年1月19日(水)17時25分
タイラー・オースティン・ハーパー

220125P52_DLU_02.jpg

トランプよりも強烈な大統領を演じるストリープ NIKO TAVERNISE/NETFLIX

イッシャーウェルの言動がとっぴなものに思えないのは、そんな人物はIT業界にはたくさんいるからだ(例えばイーロン・マスクやジェフ・ベゾス)。彼らは本気で、人類を絶滅から救うミッションと自分のビジネスが両立すると信じている。

マスクは火星への移住を可能にし、人類の絶滅を阻止することを人生の目標に掲げており、富の蓄積に励むのはそのためだと公言している。私たちはそうした言動を「狂信的誇大妄想者の戯言(ざれごと)」と一蹴しがちだが、マスクは本気だ。現にケンブリッジ大学生存リスク研究センター(CSER)に1000万ドルを寄付し、その理事となっている。

人類絶滅の阻止を目指すシリコンバレーの大物はほかにもいる。スカイプの共同創業者ヤン・ターリンは、天体物理学者のマーティン・リースと共にCSERを創設した。フェイスブックの共同創業者ダスティン・モスコビッツが創設した組織オープン・フィランソロピーは、人類滅亡に関するシンクタンクのフューチャー・オブ・ライフ・インスティテュートに1000万ドル超を寄付すると発表した。

一方、グーグルの共同創業者ラリー・ペイジは小惑星の資源採掘を目指す新興企業プラネタリー・リソーシズに出資している。小惑星での資源採掘が始まれば金(ゴールド)の価値は下がると読み、今後は金よりも仮想通貨に投資するのが賢い選択だと論じる投資顧問もいる。

現実的な将来の危機を暗示する警告

小惑星での資源採掘について、マスク本人は言葉で語らないが、行動で語っている。2020年、彼が率いるスペースXはNASAの小惑星探査計画「サイキ」の契約を勝ち取った。その狙いは、大きな利益をもたらす重金属がぎっしり詰まった小惑星を「研究」することだという。

そしてハーバード・スミソニアン天体物理学研究所のマーティン・エルビスらは、企業利益の追求と惑星防衛の任務が両立不能とは限らないと論じている。理屈の上ではそのとおりかもしれない。しかし、もしも両立しなかった場合にはどうなるのか。

『ドント・ルック・アップ』が描くのは、まさにそうしたシナリオだ。

マッケイ監督は本作で、科学的な専門知識を過小評価することのリスクを強調し、さらに「いいことをしたい」という純粋な思いと「利益を上げたい」という思いを区別することがいかに難しいかを示してもいる。

本作が描き出すのは、私たちの意思の弱さや、テクノロジーこそが私たちを守ってくれるという素朴で純真だが根拠なき思い込みだ。

映画にエンディングがあるように、私たちの地球もエンディングに向かっているのかもしれない。それなのに私たちは尊大な億万長者を許し、腐敗した政治家を許している。そして気候変動や小惑星衝突のような実存的危機に、相変わらず背を向けている。

©2021 The Slate Group

DON'T LOOK UP
『ドント・ルック・アップ』
監督╱アダム・マッケイ
主演╱レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス
ネットフリックスで独占配信中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇

ワールド

ゴア元副大統領や女優ミシェル・ヨー氏ら受賞、米大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中