イカゲーム、物語をより奥深くする「韓国文化」という「隠し味」を解説
5 LOST KOREAN ELEMENTS
3. 仲間意識
第6話「カンブ」で、「ビー玉遊び」のゲームの最中、001番のおじいさん(オ・ヨンス)は456番のギフン(イ・ジョンジェ)に自分たちは「カンブ」だと言い、「カンブ」とは「何でも分け合う親友」だと説明する。
だが英語の字幕では、カンブは「相手のものと自分のものを区別せず」共有する、というせりふがない。おじいさんのその後の行動のカギとなる言葉だ。
おじいさんはもう1度そのせりふを繰り返してから、「受け取れ、君のものだ。私たちはカンブだろう?」と言う。第6話の要となるこのせりふ、韓国人の情(韓国語で「ジョン」)の深さも捉えている。
4. 学歴社会
サバイバルゲームが展開するにつれて視聴者は、その経歴のおかげで他の参加者より立場の有利な参加者がいることに気付く。例えば、ある外科医は自分の技能を生かしてゲームを有利に運ぼうとする。
一方、ミニョが浮き彫りにするのは、サバイバルゲームを生き抜こうとする別の階級の人々だ。彼女はギフンに自分とチームを組んでほしいと頼むとき、他人を出し抜くのは得意だと豪語し、「勉強したことなんかないけど、頭がいいのはマジ」で「詐欺だけで前科5犯」だと言い放つ。
韓国社会において学歴は、社会経済的な階段を上る唯一の方法として、昔から大切にされてきた。学歴崇拝の歴史は、朝鮮最後の統一王朝である李朝の時代(1392~1910年)までさかのぼる。当時、高貴な身分は家柄だけで決まるのではなく、支配階級になるためには何年も勉強して官吏登用試験(科挙)に合格しなければならなかった。こうした背景は韓国人には常識だが、外国人にはピンとこないだろう。
ミニョのせりふは、教育を受けることができるのは得てして、それだけの余裕のある人々に限られるという状況に光を当てる。韓国の大学受験競争は実に熾烈だ。しかし、たとえ狭き門を突破できたとしても、授業料が払えないケースもある。
階級間の緊張関係はギフンと幼なじみのチョ・サンウの関係にも描かれている。第8話「フロントマン」で、ギフンはサンウと激しく言い争った末に言う。「俺がここにいるのが情けないなら、双門洞(サンムンドン)の誇りである、SNUの天才チョ・サンウがなぜここにいる?」
英語の字幕でSNUとなっているのは韓国一の名門、ソウル大学のことだ。といっても、サンウは裕福な家柄の出ではない。ソウルの双門洞というつつましい「下町」の出身だ。監督のファンもサンウと同じように、双門洞で生まれ、母子家庭で育てられた。ファンもソウル大学の卒業生で、祖母はサンウの母親と同じく露天商をしていた。