最新記事

ドラマ

イカゲーム、物語をより奥深くする「韓国文化」という「隠し味」を解説

5 LOST KOREAN ELEMENTS

2021年12月14日(火)12時29分
スー・キム
イカゲーム

NETFLIXシリーズ『イカゲーム』独占配信中

<翻訳ではニュアンスまでは表現できなかった「韓国ならでは」の要素を理解すれば、登場人物の人物像や心理面をより深く楽しめる>

サバイバルゲームをテーマにしたドラマシリーズは目新しいものではない。だが『イカゲーム』の構想当初、脚本・監督を手掛けるファン・ドンヒョクは、そこに韓国っぽさを加えたいと思った。

サバイバルドラマの要素と韓国風の設定を結び付け、「サバイバルものの新ジャンル」を作ることを思い立ったと、ファンは韓国の映画誌シネ21に語っている。

しかし英語の字幕や吹き替え版では、監督が登場人物とストーリーに織り込んだ韓国的な要素が詳しく説明されることはない。そのため外国人の視聴者には、韓国語の脚本のニュアンスを伝え切れていない部分がある。

英語にうまく翻訳できずに失われたり取りこぼされたりした可能性のある韓国っぽさを、5項目に分けて取り上げてみた。

1. 韓国人の名前

「レッドライト、グリーンライト」というゲームの名前は、韓国語のオリジナルではまるっきり違い、「ムグンファの花が咲きました」だ(日本語版では「だるまさんが転んだ」)。ムグンファとはムクゲのことで、英語では「ローズ・オブ・シャロン」。韓国の国花なので、英語の翻訳は韓国のアイデンティティーを奪っている。

また、067番の参加者の名前カン・セビョク(チョン・ホヨン)は、韓国語では「川」「夜明け」という意味だ。その繊細で平和なイメージは、怖いもの知らずの彼女の芯のもろさを表しているのだろう。

212番のハン・ミニョという名前にも注目。キム・ジュリョン(ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』にも出演)が演じる、おしゃべりでエネルギッシュな女性だが、名前は直訳すれば「美女」。彼女の誘惑的なキャラに引っ掛けたのかもしれない。ミニョはいつも計算高く、一番強そうな者に取り入ろうとする。

2. 北朝鮮なまり

211116P26_HON_01.jpg

ALBUM/AFLO

外国人の視聴者は気付かないかもしれないが、セビョク(実は脱北者)には明らかなアクセントの違いがある。ほかの参加者と一緒にいるときは、それを隠しているようだ。

彼女の北朝鮮なまり(韓国各地で耳にするさまざまなアクセントとは違う)がちらりとのぞくのは、第2話「地獄」で弟と話すときだ。北朝鮮に強制送還された母親を再び脱北させようとする北朝鮮のブローカーと話すときも特徴的なアクセントが出る。

ゲーム開始当初から誰のことも信用しないセビョクが、韓国人参加者たちから北朝鮮なまりを隠さなければと感じている、と考えてみれば興味深い。そうでなくても魅力的で重層的なキャラクターに、また新たな一面が加わるのは確かだ。

ひょっとしたら、セビョクの特徴的なアクセントは、北朝鮮と韓国の複雑な関係と、南北間で今も続く緊張の象徴でもあるのかもしれない。北朝鮮と韓国の戦争は公式にはまだ終わっていないのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中