今年のアカデミー賞候補はハズレなし! 一方で過去の「駄作」候補は...
Good Movies in a Bad Year
往年の映画ファンにとっては『Mank/マンク』がたまらないだろう。ハリウッドの歴史を扱った過去の作品と比べても、極めて質が高い。『シカゴ7裁判』は、ヘビーな問題を軽く描いた作品だが、弁護士を演じたマーク・ライランスのカツラだけでも、ノミネートする価値がある。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、賛否両論を招くだろう。批判派は駄作だと言うかもしれないが、この種のリベンジ物語に求められるカタルシスが用意されている。
過去にも『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』や『プレシャス』『スリー・ビルボード』など、一大傑作でも駄作でもないが、「議論する価値のある映画」が作品賞候補になってきた。こうした作品は、毎年1本はあってもいいと思う。
興行収入を無視した評価
それにしてもなぜ、今年はこんなにいい作品ばかりがノミネートされたのか。
筆者の推測では、大きな理由は3つある。第1に、コロナ禍のために、興行収入という作品評価の大きな要因がなくなり、『ジョーカー』や『ボヘミアン・ラプソディ』といった駄作がノミネートされなくなった。これまでは駄作を選んでいたアカデミー会員も、その興収がよければ、「自分には見る目がある」と主張ができた。だが、20年は数億ドルレベルの興収を上げた作品がゼロに近かったため、その可能性が消えた。
第2に、映画会社が例年のようにカクテルパーティーなどを開いて、アカデミー会員に盛んに売り込みができなかったことが、落ち着いた映画の評価につながったようだ。
例えば、『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』は、19年に作品賞を受賞した『グリーンブック』のように、米国社会の分断が単純な問題ではないことを描いたが、アカデミー会員たちは映画そのものの質があまり高くないという冷静な判断を下したようだ。
あるいは、メリル・ストリープやニコール・キッドマンなど大スターを起用したド派手なミュージカル映画『ザ・プロム』は、やはりド派手なキャンペーンが行われていたら作品賞候補に入っていたかもしれない。だが、自宅でストリーミング配信で見た会員たちは、あまり感心しなかったようだ。いい判断だ!