最新記事

日本

「悲しいとかないの?たった一人のお兄さんやろ?」──不仲だった兄を亡くした

2020年4月2日(木)11時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

そう言いつつも河村さんは、ただし、すべて良一君次第です、すべて本人の意志に任せますとくり返した。その河村さんの説明の仕方から、児童相談所に子どもが保護されることの意味合いを再認識した。

いくら私が良一君の親権を持っていた兄の唯一の妹であっても、良一君に自由に会うことはおろか、良一君の行動に直接関与することはできない。そして今のところ、葬儀に行くかどうか聞くと、黙り込んでしまう状況らしい。

「五日の午後には塩釜署から斎場に直行する予定です。詳細が決まりましたらまたお知らせしますので、どうぞ甥のことをよろしくお願いいたします」と告げて、私は電話を切った。

甥に関しては、かなり幼い姿しか記憶にない。いったいどんな少年に育っているのだろう。

次に連絡をしたのは、父方の叔母(父の妹)だった。偶然にも、兄の亡くなる数ヶ月前に数年ぶりに連絡を取っていたのだ。そのきっかけを作ったのは、実は兄だった。

「この前、叔母さんに連絡したら、ガン無視されたぜ」というメッセージが届いたのは、夏の終わりのことだった。金の無心でもしたのだろうと思って、「借金を頼まれると思ってびっくりしたんじゃないの」と短く返信した。

「ハハハ、その通りだよ。俺なんて、天涯孤独だね。誰にも頼ることができないよ」と悪びれるでもなく返してきた兄には、そのまま返信をしなかった。

私はすぐに叔母にメールを書いた。

「兄が迷惑をかけたみたいですね。いつもすいません。仕事で東京に行くときがあるので、ぜひ会いましょう」

叔母はすぐに返事をくれ、「会えるのを楽しみにしてるよ」と書いてくれていた。

兄の死を伝えると、叔母はとても驚いた様子だった。

兄は、母方の親戚よりは、父方の親戚と親しかった。兄が職を転々としていた頃、兄を心配した叔母の家に居候していたこともある。

長年小学校教師として勤めてきた叔母は、明朗で、面倒見のいい人だ。正しさと常識を重んじる言動や生き方は、わが一族のなかでは変わり種で、いかにもベテラン教師といった雰囲気だった。私はそんな叔母が昔から好きで、あのときは久しぶりに連絡を取れたことに喜んでいた。

叔母は私の話を聞くと、「あたしも行くよ、塩釜まで。あの子に会いに」と言った。涙声だった。

※前編:不仲だった兄を亡くした。突然の病死だった──複雑な感情を整理していく5日間はこちら。


兄の終い
 村井理子 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ゴールドマン、原油価格予想を下方修正 関税と供給増

ワールド

韓国大統領罷免、60日以内に選挙 尹氏「申し訳ない

ワールド

欧州11カ国がメルコスルとのFTA締結に向け協議、

ワールド

メキシコ、米関税除外は貿易協定が奏功 大統領が評価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 2
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 7
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 8
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 9
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中