建造物崩壊にIMF危機...... 不穏な90年代韓国の青春を描いた映画『ハチドリ』異例のヒット
「漢江の奇蹟」の後に韓国を襲った悲劇
映画『ハチドリ』の主人公ウニの父親は、長男を日本でいえば東京大学にあたるソウル大学に入れたがっている。家を継ぐ長男はいい大学を出なくてはいけないという信念の持ち主なのだ。そんな父からの圧迫と受験のストレスのはけ口として、兄はウニに日常的に暴力をふるっている。暴力を受けつつも「こういうものだ」と耐えるウニ。キム・ボラ監督は、現在38歳の女性である。25年前の1994年は、監督自身13歳で主人公とリンクする。アラフォー世代が、人生の約半分を折り返す意味で自分の人生を振り返って声をあげる姿に多くの女性が共感している。
もう一つのキーワードは映画の時代設定だ。1994年といえば、韓国ドラマ『応答せよ!1994』でも、この時代を取り上げてヒットした。この年は韓国で史上最高気温を記録し、北朝鮮の金日成国家主席が亡くなったニュースが世界を駆け抜けた。しかし、それよりも韓国人の心に残っている出来事といえば、ソウル中心を流れる漢江に架かるソンス大橋が突然崩壊したことだろう。映画の後半でもこのエピソードは登場する。ウニの姉が乗るはずだったバスが橋の上を通過中だったのだ。幸い姉は遅刻し、バスには乗っていなかった。
『ハチドリ』は、2011年にキム・ボラ監督が作った28分の短編映画『リコーダー試験』の続編である。9歳のウニを描いたこの短編は好評で、ある観客から「ウニのその後が見たい」という意見を受け、監督はこの長編を製作することを決めたという。中学2年のウニを描くと決めたのは、やはり「ソンス大橋崩壊」があったからだという。
監督はインタビューで「94年にソンス大橋、95年に三豊百貨店の崩壊があり、それまで韓国が先進国へ仲間入りする希望をもって国民が向いていた気持ちが、一気にどちらへ向かっていけばいいのか方向性が分からなくなった」と語っている。