建造物崩壊にIMF危機...... 不穏な90年代韓国の青春を描いた映画『ハチドリ』異例のヒット
独立系映画としては異例のヒットとなった映画『ハチドリ』 Busan International Film Festival / YouTube
<今の韓国の30代以下は恋愛、結婚、出産を放棄し諦めた「三放世代」と呼ばれる。その世代の思春期を描いた独立プロダクションの映画が異例のヒットとなった>
8月29日に韓国で封切された1本のインディーズ映画が話題を呼んでいる。韓国映画『ハチドリ(英題:House of Hummingbird)』は、9月16日の時点で観客動員数7万5964人を記録した。単館系映画で上映時間が2時間を超え、派手なアクションがあるわけでもない。さらに主人公は長編作品初主演の子役であるにもかかわらず、異例のヒットを飛ばしている。
実は、この映画は上映前から一部映画ファンの間ではすでに有名で、公開が待ち望まれた作品だった。韓国の封切が決定される前から、2018年の釜山国際映画祭やソウル独立映画祭などですでに上映されており、さらに国内だけではなく海外映画祭からも好評を受けていた。第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション14+部門大賞をはじめ、その他国内外約25もの映画祭で賞を受賞している。今回の8月末の公開はまさに凱旋封切りとなったわけだ。
ここまで紹介すると、一体どんな作品なのか気になるところだろう。舞台は1994年の韓国・ソウル。中学2年生の女の子ウニの物語だ。両親はお餅屋さんを営みいつも忙しい。教育熱心な父と無関心な母、姉と兄と末っ子のウニを取り巻く家族、先生や自分を慕う後輩との出会い、彼氏とのキス、万引きなど、誰もが一度は経験するような中学生の日常を描いている。では、なぜこの映画がそこまで話題となりSNSや口コミを通じて人気を呼んでいるのか。いくつかのキーワードが見えてきた。
主人公は『82年生まれ、キム・ジヨン』と同世代
主人公ウニは、1994年の時点で中学2年生という設定で80年生まれの女の子だ。今年日本でも翻訳版が発売され大きな話題となったチョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公ジヨンと同じジェネレーションである。この小説は、韓国で発売されるや否や100万部を超えるベストセラーとなり、現在映画化が進んでいる。物語は、主人公ジヨンの半生を振り返りながら進む。女性だから我慢しなくてはいけなかった自分や、男性が優遇される世の中...それが異常だと気づいていなかった男尊女卑の世の中を、医師のカルテを通して淡々と描いている。これが、韓国でのMeToo運動や女性嫌悪問題(=ミソジニー)をはじめとする流れの中で社会現象となった。