最新記事

映画

建造物崩壊にIMF危機...... 不穏な90年代韓国の青春を描いた映画『ハチドリ』異例のヒット

2019年9月17日(火)18時45分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

独立系映画としては異例のヒットとなった映画『ハチドリ』 Busan International Film Festival / YouTube

<今の韓国の30代以下は恋愛、結婚、出産を放棄し諦めた「三放世代」と呼ばれる。その世代の思春期を描いた独立プロダクションの映画が異例のヒットとなった>

8月29日に韓国で封切された1本のインディーズ映画が話題を呼んでいる。韓国映画『ハチドリ(英題:House of Hummingbird)』は、9月16日の時点で観客動員数7万5964人を記録した。単館系映画で上映時間が2時間を超え、派手なアクションがあるわけでもない。さらに主人公は長編作品初主演の子役であるにもかかわらず、異例のヒットを飛ばしている。

実は、この映画は上映前から一部映画ファンの間ではすでに有名で、公開が待ち望まれた作品だった。韓国の封切が決定される前から、2018年の釜山国際映画祭やソウル独立映画祭などですでに上映されており、さらに国内だけではなく海外映画祭からも好評を受けていた。第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション14+部門大賞をはじめ、その他国内外約25もの映画祭で賞を受賞している。今回の8月末の公開はまさに凱旋封切りとなったわけだ。

ここまで紹介すると、一体どんな作品なのか気になるところだろう。舞台は1994年の韓国・ソウル。中学2年生の女の子ウニの物語だ。両親はお餅屋さんを営みいつも忙しい。教育熱心な父と無関心な母、姉と兄と末っ子のウニを取り巻く家族、先生や自分を慕う後輩との出会い、彼氏とのキス、万引きなど、誰もが一度は経験するような中学生の日常を描いている。では、なぜこの映画がそこまで話題となりSNSや口コミを通じて人気を呼んでいるのか。いくつかのキーワードが見えてきた。

主人公は『82年生まれ、キム・ジヨン』と同世代

主人公ウニは、1994年の時点で中学2年生という設定で80年生まれの女の子だ。今年日本でも翻訳版が発売され大きな話題となったチョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公ジヨンと同じジェネレーションである。この小説は、韓国で発売されるや否や100万部を超えるベストセラーとなり、現在映画化が進んでいる。物語は、主人公ジヨンの半生を振り返りながら進む。女性だから我慢しなくてはいけなかった自分や、男性が優遇される世の中...それが異常だと気づいていなかった男尊女卑の世の中を、医師のカルテを通して淡々と描いている。これが、韓国でのMeToo運動や女性嫌悪問題(=ミソジニー)をはじめとする流れの中で社会現象となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中