アンコール・ワットは、夏に行ってはいけない
世界60カ国以上の世界遺産を訪れた旅行の猛者がぶった切る、ガッカリしないためのリアルガイド(3)
人気は抜群だが 大小600 以上の遺跡があるアンコール。もっとも有名なアンコール・ワットは「王都の寺院」を意味し、12 世紀に建てられた Tom Roche/Shutterstock
高いお金をはたいて、長時間の移動に耐えて、やっとたどり着いた旅先で「え? たったこれだけ!?」とガッカリした経験はないだろうか? それは世界遺産も同じ。「世界遺産は、素晴らしい観光地にあらず」と、世界60カ国以上、185件もの世界遺産に足を運んだ花霞和彦氏は言う。
旅行の猛者である花霞氏が著した『行ってはいけない世界遺産』(CCCメディアハウス)は、「見どころ」と「コストパフォーマンス」をもとに世界遺産をぶった切った、これまでになかったガイドブック。20件の世界遺産を徹底検証し、本当に行く価値があるのか、値段と時間と労力に見合うのかを教えてくれる。
「ご当地グルメに目がない人は行ってはいけない モン・サン=ミシェル」「熱海観光の後に行ってはいけない アマルフィ海岸」に引き続き、ここでは「夏に行ってはいけない アンコール」を抜粋・掲載する。
『行ってはいけない世界遺産』
花霞和彦 著
CCCメディアハウス
抜粋第1回「こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない」はこちら
抜粋第2回「熱海と大差ない、「世界一美しい」アマルフィ海岸」はこちら
2度も破壊された遺跡群
アジアにある世界遺産で知名度、人気ともにナンバーワンなのが、アンコール遺跡ではないでしょうか。9世紀、現在のカンボジア王国のもととなったクメール王朝が始まります。最盛期にはインドシナ半島のほぼ全域を治めたといい、その都が置かれたのがアンコールです。巨大な遺跡は、600年続いた王朝の栄華の証といえます。
1431年に隣国アユタヤ(現在のタイ)の侵攻でアンコールが破壊され、プノンペンに都が遷ると、この地は打ち捨てられて荒廃します。1860年にフランス人によって発見されるまでの長い間、密林に覆われていたのです。その後、カンボジアがフランス統治下に置かれたことで保存・修復が始まりましたが、1970年、今度は内戦が勃発。遺跡はまたも破壊されてしまいます。現在は国も安定し、ユネスコなどの国際機関と各国からの支援よって、修復活動が行なわれています。
遺跡を救うジャパンマネー
このような修復を必要とする世界遺産はたくさんあり、その原資のひとつとなるのが世界遺産基金です。世界遺産条約の締約国が支払う分担金と任意の拠出金によって、世界遺産の真の目的である保護が行なわれているのです。
日本は上位の拠出国で、2013年には2900万円の分担金を拠出しています。これまでにアンコール遺跡の修復支援に投じられたジャパンマネーは、実に30億円以上! これは、日本が支援した海外の世界遺産では最高額で、2位の「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」の6倍にもなります。なんだか、アンコールが身近に感じられてきます。