最新記事

話題作

これは本当にゴジラ映画か?

2014年8月1日(金)11時24分
大橋 希(本誌記者)

破壊のカタルシスは?

 ハリウッド映画の日本描写を細かくあれこれ言うのはばからしいかもしれない。それでも「雀路羅」という地名には萎えた。それはタイ? インド? 54年の『ゴジラ』に出てくる呉爾羅(ごじら)伝説の漢字に似せたのか?たとえ架空の場所でも、原発事故を題材にした『希望の国』(園子温監督)の「長島県」くらいのセンスは欲しかった。

 ジョーたちが暮らす家の造りや周囲の風景も、日本というにはかすかな違和感を覚えるエキゾチックさ。映画が始まって早々、大きな不安が募る。

 さらに興ざめなのは、54年の水爆実験の真相は「あれ」を殺すためだった、という設定。アメリカの水爆実験がゴジラを呼び覚ましたというオリジナル版のメッセージは抹殺された。原発が爆発し、核弾頭が奪われ、街は津波にのまれるなど、核や人間のおごりへの批判もにおわせはする。だがそれもパニックを起こすための要素にすぎない。

 この作品は「怪獣映画の枠を超えた、人間が主人公の家族のドラマ」だと宣伝されている。確かにジョーとフォード父子の確執、愛する妻と息子を守るためのフォードの戦いなど、家族ドラマ抜きには語れない。だが、それこそが一番の問題だろう。

 ゴジラ映画の見どころは何といっても、ゴジラが雄たけびを上げ、放射熱線を吐き、街を破壊し、敵の怪獣と戦うところ。自然か神か、人知を超えた脅威の存在がもたらすカタルシスだ。なのにこの作品では特別感動もない人間ドラマに時間が割かれ、ゴジラが全貌を現すまでとにかく待たされる。「早くゴジラを見せてほしい」と途中で何度も思った。

 その間に画面を動き回り、人間たちを翻弄するのがゴジラの敵となる怪獣ムートー(Massive Unidentified Terrestrial Organism〔未確認巨大陸生生物〕)だ。昆虫にキリスト教の悪魔を掛け合わせたような姿で、東宝のライバルの大映が生んだ怪獣ギャオスにも似ている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ首都に夜間攻撃、9人死亡・70人以上負傷

ワールド

米関税、インドGDPを最大0.5%押し下げる可能性

ビジネス

日産、米国でセダンEV2車種の開発計画を中止 需要

ビジネス

トランプ関税で「為替含め市場不安定」、早期見直しを
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中