部下が適応障害? 親身に相談に乗り、仕事を減らしてあげるのが良い対応とは限らない
その半年後、彼は心身の不調をきたし、出社することができなくなってしまいました。そして、「適応障害」と書かれた診断書を提出し、長期の療養生活に入ったのです。あなたはいまさらのように愕然としますが、どうすることもできません。
このようなとき、上司の取りがちな態度として、次のようなことが考えられます。
①どうしていいかわからず、結局何もしない
②「根性」「気のゆるみ」など、精神論に置き換える
③「この程度でおかしくなるはずがない」など、自分の価値観で判断する
④「俺に任せとけ」と親身になりすぎる
①は、様子の変化に気づきさえしないことも含め、最も多いケースです。医務室や産業医など、相談する先があっても利用しない、関わりたくない、関心がないなど、理由はさまざまです。
②は、バブル経済のころまでは当たり前だった価値観です。メンタルヘルス不全の存在すら認めず、人格的な「弱さ」だと決めつけます。戦前の教育の名残があるのかもしれません。
この風潮は、1991年の電通事件(社員の過労自殺に対して会社の責任が初めて認められた事件)をきっかけに、ようやくピリオドが打たれましたが、40代以上の世代では、まだまだ色濃く残っています。
③は、部下の立場に立って考えられていないということです。
部下の心情、能力への配慮を欠きます。そうなる要因の一つに、上司の立場にいる人が競争に打ち勝ってきた、ある程度能力の高い人であるということがあります。
そういう人は、自身の能力を基準に見るので、パフォーマンスの落ちている部下を前にしても、なぜできないのかがよく理解できません。できて当たり前だと思うのです。その結果、「こんなこともできないのか」「このぐらいできるはずだ」など、個人的な価値基準で推しはかり、容赦なく断罪します。
④は、面倒見のよい上司にありがちです。相談に乗ったり仕事を減らしてあげたり、自分なりに親身になって一生懸命です。しかし、その方向性が独善的なため、往々にして意図しない方向に進みます。
このタイプの上司でよくあるのが、「俺がお前をよくしてやる」と部下を抱え込み、1対1の濃密な関係性を作り上げることです。その結果、部下の病状が秘匿され、関係部署との情報共有がなされません。
その上、「会社に知られると、不利になる」「俺に任せとけ」などと気遣って他言することを禁じ、気がつけば、取り返しのつかないまでに悪化させます。
もちろん、適切に対応できている上司もいるでしょうが、メンタルヘルスケア対策が必ずしも十分でないわが国においては、①~④のいずれかになってしまうケースが多いのです。