僕らは宇宙を「老化させる」ために生きている...池谷裕二が脳研究から導く「生きる意味」
研究で唯一ブレないのは、「可塑性」というテーマ
──池谷先生が脳研究を継続する原動力は何でしょうか。
新しいものが好きだからですかね。科学の研究が楽しいのも、次々に新しいものが発見されるから。世界の誰かが日々発見したことを、論文や学会で知るのが好きなんです。自分にとって新しい考え方を知ると、すぐに感化されて、しばらくはその立場で物事を考えてみたくなります。自分の立脚点がないといえるかもしれませんが、新しい立脚点から世界を眺めると、過去の自分も相対化できる。その積み重ねが面白い。私の研究の原動力は、新しいもの好きで飽きっぽいことなんでしょうね。
その時々で興味のあるテーマを探究しているので、自分が5年後にどんな研究をしているかはわかりません。ただ、1つだけ芯があるのが、脳などの「可塑性」のテーマ。常に変化可能性があるものという点だけはブレていない。そう思うと、可塑性って自分そのものですね(笑)。
私は論文中毒なんです。毎日朝起きると100本から150本の論文をチェックしています。ノーベル賞のうち物理学賞、化学賞、生理学・医学賞の3つが理系の領域ですが、この3つで毎年最大で9人が受賞します。つまり、今年発表された論文のうち9本はノーベル賞級ということ。受賞が何十年後かはわかりませんが、毎月1本くらいはノーベル賞級の論文に出合っているわけです。そう思うとワクワクするんですよね。
今後も膨大な論文を読むなかで、「これだ!」と思うテーマに色々と飛びつくと思います。研究テーマは科学の進展に依存しますし、周囲に刺激を受けて、そこから自分なりに進展させていくのが好きなんです。だから、これからもずっと刺激を受け続けたいですね。
『進化しすぎた脳』
著者:池谷裕二
出版社:講談社
要約を読む
『単純な脳、複雑な「私」』
著者:池谷裕二
出版社:講談社
要約を読む
『夢を叶えるために脳はある』
著者:池谷裕二
出版社:講談社
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池谷裕二(いけがや ゆうじ)
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学薬学部教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康について探究をつづける。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞、塚原仲晃記念賞などを受賞。主な著書に『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版』(以上、講談社ブルーバックス)、『海馬』『脳はこんなに悩ましい』(ともに共著、新潮文庫)、『脳には妙なクセがある』(新潮文庫)、『パパは脳研究者』(扶桑社新書)など。近刊に、高校生への脳講義シリーズ完結編となる『夢を叶えるために脳はある』(講談社)がある。
flier編集部
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