注目が高まる「労働時間」 出張先への移動は労働時間に入る?
Q3:得意先から得意先への移動時間は労働時間になるか?
A3:労働時間となる
<解説>
ある会社に訪問して、その後に別の会社に訪問した場合、移動時間中は自由に行動できるケースが多いと思われますが、時間的な拘束や場所的な拘束が高いため労働時間となります。
就業規則や雇用契約書に取り決めがあれば、移動時間中とその他の業務時間の時給を変更しても法違反ではありません。例えば訪問介護サービスの場合、介護サービスを提供している時間と移動時間の時給を変更することがあります。
Q4:自主練習や自己啓発の時間は労働時間になるか?
A4:労働時間にはならない
<解説>
美容室など一定の職種では、職場に居残り自主練をすることがあります。また会社によっては労働者の自己啓発のために職場の会議室等を労働者に使わせていることがあります。このような自主練や自己啓発は、あくまで労働者の自発的な意思でおこなう行為であるため、労働時間とはなりません。
ですが、職場を使って自主練習や自己啓発を行う場合、注意が必要です。なぜなら労使間で認識のズレが起こると、本来労働時間とはならない自主練習や自己啓発の時間が労働時間だと主張される可能性があるためです。
具体的には、「名目は自主練習だが、実際は強制参加の研修だった」という形で、自主練習に対する賃金を請求されるケースがあります。このような事態を防ぐためには労働者に対して、「自主練習や自己啓発をするか否かは自由であること」を十分に説明し、労使間での認識のズレを無くすことが重要です。また説明文書や同意書などでその事実を残しておきましょう。
なお、会社が取得を指示した資格の勉強時間については、労働時間となる可能性がある点に注意しましょう。
Q5:持ち帰り残業は労働時間になるか?
A5:労働時間にはならない
<解説>
労働者が自分の判断で行った持ち帰り残業は労働時間とはならないという考え方が一般的です。理由はいつ仕事をするかという時間的な拘束がありません。自宅やカフェなど好きな場所で仕事ができるため場所的な拘束があるともいえません。テレビを見ながら行うこともでき事業主の支配下にあるともいえないためです。
ですが、持ち帰り残業が労働時間と認定される可能性があります。具体的には、ある労働者に所定労働時間内には到底処理切れない業務量が指示されていた場合、その労働者が持ち帰り残業を行ったとします。この場合、持ち帰り残業であっても労働時間と認定させる可能性があります。
また労働時間と認定されるか否かという問題とは別に持ち帰り残業には会社の管理の行き届いていない場所で業務が行われているという問題があります。このような状況だと情報漏えいの危険性があるので、持ち帰り残業はさまざま角度から実施させないようにしましょう。
労働時間になるかならない判断が難しい5つのケースをとりあげました。本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
2020.10.23
[執筆者]
吉田 優一
社会保険労務士法人ONE HEART 代表 社会保険労務士
2012年社会保険労務士試験に合格。その後、社会保険労務士法人で中小企業の労務管理アドバイス業務に8年間従事する。その中で労務管理のノウハウを知らないために、「ヒト」の問題に悩む多くの中小企業経営者に出会う。そのような中小企業経営者にとってより役に立つ存在になるには、自分自身が中小企業経営者になる必要があると感じ、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し、独立開業。創業直後や上場を目指す会社の労務管理の適正化が得意。Twitterでスタートアップ、ベンチャー企業に有益な労務管理の情報を発信しています。