「話し上手」になるために、まず見直すべきは「相手の話を聞く」姿勢と準備
「世界を変える時間、十五分」という講演に行ったときのことだ。事前に放送作家と原稿をやりとりし、修正も済んでいた。A4用紙に十ポイントの文字の大きさで三枚分びっしり書けば、十五分程度話す分量になると聞いていた。
私は、原稿をまとめたA4用紙を見ながら内容を覚えた。一枚目の真ん中あたりにこの内容があり、端っこにはこの内容が......二枚目の冒頭にはこの内容があり......というふうに。
私たちはテキストを覚えるときも位置情報というものを使っている。だから、学校で試験を受けるとき、その内容は覚えていなくても、「あ! これは、教科書の右側のページの写真の下にあった内容だ!」ということだけは思い出せることがある。
ところが、講演会場に着くと、原稿をカンペにして渡された。カンペというのは、お笑い番組などで司会が手に持っている、厚紙を横向きにして書いた原稿だ。もらったカンペは三枚以上あり、私は、覚えてあったA4用紙の原稿の位置情報がこんがらがって頭の中が混乱しはじめた。
リハーサルの後、これではダメだと思い、控室でカンペの余白に小さなマインドマップを描いた。それを描いている間に私の頭の中はきれいに整理され、本番ではカンペを一度も見ずに話すことができた。
ポッドキャストの進行をするときは、必ずA4用紙一枚を準備してマインドマップを作成する。真ん中にはゲストの名前を書き、そこから伸びる枝にはその人の著書の中から覚えておかなければと思うことを書いておく。
ゲストの作家たちは、私が適切なタイミングで本人の著書の一部を引用するととても驚くが、それはすべてマインドマップのおかげだ。もし、私が覚えておくべき内容をすべて文字で書いて録音室に持っていったとしたら、会話の中でそれを探すのは難しいだろうし、会話の流れも途切れてしまうだろう。
マインドマップは膨大な内容もA4用紙一枚にさらっと記録することができ、ひと目でぱっと見やすく、ポッドキャストの進行や講演をするときに確実に役に立つ。マインドマップは左脳と右脳を同時に活発に働かせるので、内容を記憶するのにも有効だ。録音前に白紙一枚を取り出して入念にマインドマップを作成する過程で、私の頭の中はすでにすっきり整理されている。