誰とでも心地の良い「良質な会話」ができる、テクニックより大事な「意識」とは
ポッドキャストのゲストと一対一で対話するとき、私はそれを「二重奏」なのだと想像するのが好きだ。そして、その想像の中で私は、ジム・ホール役になる。ジャズギタリストのジム・ホールは、進行役の私にとって理想的なロールモデルだ。
彼は自分のエゴを前面に押し出すことなく、相手のミュージシャンが持っているものがうまく引き出されるように配慮し、呼応しながらすてきな協演へと導いていく。どんなミュージシャンと協演しても、あきれるほどに自分の役割に忠実だ。私は、ジム・ホールが参加している演奏をじっと聴きながら理想的なコミュニケーションというのはどういうものなのかをいつも直感的に感じ取っている。
韓国を代表するグラフィックデザイナーのイ・ジェミンさんは、レコード蒐集家でもあり、音楽に造詣が深い。著書『掃除しながら聴く音楽』(未邦訳)の中で自身が集めたレコードと好きな音楽について書いていて、「チェキラウト」に出演したとき、まさに『インターモデュレーション』とジム・ホールのことが話題になって盛り上がった。
『掃除しながら聴く音楽』には、次のように、『インターモデュレーション』でのジム・ホールの役割がこれ以上にないぐらいかっこよく表現されている部分がある。
このアルバムでジム・ホールは、まるでビル・エヴァンスを慰めているように思える。(中略)内向的で、意気消沈しているビル・エヴァンスに「今日は俺が酒をおごるよ。大丈夫。きっとうまくいくさ」と言葉をかける。すると、引きこもり中だったビル・エヴァンスは、出かけようかどうしようかと迷っていたかと思うと外出の準備をしてしまう。酒を飲み、会話をしながら、二人はそれなりに楽しい夜を過ごす。過ぎてしまったことにはあえて言及しない。相手にプレッシャーを与えず、配慮するのも才能だ。ジム・ホールの演奏はそうやって、空いたグラスをカウンターに置くとさりげなく現れるバーテンダーのように、いるべき場所に正確に存在するみたいに思える。そしてそこに、ビル・エヴァンスは、穏やかな気持ちで自身の生命水をとても優雅な手つきで少しずつ注いでいく[『掃除しながら聴く音楽』八十七ページより引用、ワークルーム、二〇一八]。
そして、それは私が思い描く「チェキラウト──キム・ハナの側面突破」という二重奏の理想の風景でもある。「空いたグラスをカウンターに置くとさりげなく現れるバーテンダー」のような役割を私はうまくやり遂げたい。
会話を音楽にたとえるなら、二重奏の内容と呼吸を考慮しなければならないのはもちろん、「音響」にも注意を傾けなければならない。実際、私は音響としての声の役割を、時には話の内容よりも重視しているのだが、ただただ、誰かの穏やかで柔らかい声を聴いているのが心地よくて、内容よりもその声に注意を傾けた経験が誰にでもあるのではないかと思う。