「ニーズを満たす商品」では売れない...消費者「優位」時代に生き残るブランドとは
SHIFTING LOYALTIES
例えば英スーパーチェーンのアスダは、コロナ禍で健康と安全を気にする消費者が増えたため、カートに抗菌ミストを15秒間噴射する電動式洗浄機を店舗に導入。米家電小売り大手のベスト・バイは、顧客が自分だけの特別なサービスを受けている気分になって長く利用するよう、無償の在宅コンサルティングサービスを開始。顧客は自宅にいながらにして、スペースと予算に合ったテレビはどれかといった相談ができる。
繊維メーカーの環境破壊に敏感な顧客の不安を和らげようと、米ファッション・ブランドのラルフ・ローレンは使用した水を全て再利用して廃水を出さない染色システム「カラー・オン・デマンド」構想を発表。25年までに一色のみで染めた綿製品の80%超をこのシステムで染めることを目指すという。
社会的関心に最も購買意欲を駆り立てられるのは若い購買層らしく、しかも、そうした社会的関心は高まっている。コンサルティング会社「ドゥサムシング・ストラテジック(DSS)」の19年の調査で、対象となった13~25歳のZ世代の3分の2がブランドの社会的影響を重視すると回答。それが21年には85%に急増、ブランドに社会的責任はないとの回答はわずか4%だった。
「コロナ禍は恐ろしく、若者の世界観に多くの長期的影響を与えている」とDSSのマーシー・ホアン上級ストラテジストは言う。
ブランド側からの長期的な関与が必要
製品のサステナビリティー(持続可能性)に加え、若者は広範な社会問題に基づき、企業経営陣の多様性や労働方針などを見て、買うかどうかを決めているとホアンは指摘する。「孤立した環境には大義は存在しない」。さらに社会的関心の高い若者のブランド・ロイヤルティー育成には、ブランド側からの継続的・長期的な関与とコミュニケーションが必要だという。「信頼は確立するのに何カ月もかかるが、一瞬で壊れる」
顧客を引き留めたいブランドにとって問題をさらに複雑にするのは、コロナ禍による世界的なサプライチェーンの混乱だ。最も忠実な顧客ですら、お気に入りのブランドが買えないとほかに目移りしかねない。
マッキンゼーによる21年の調査で、欲しい商品が在庫切れだったと回答したのは60%。そのうち再入荷まで待つと回答したのはわずか13%、約70%が他のブランドや小売店に乗り換えたと回答した。会員制小売り大手コストコはサプライチェーンの障害に対応するため、アジア-北米間で独自にチャーター船を確保しなければならなかった。