アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需要に変化の兆し

4月22日、 「黄金の街」とも呼ばれるアラブ首長国連邦(UAE)の都市ドバイの「ゴールド・スーク(金市場)」では22カラットの金の宝飾品が、結婚式や宗教的な祝い事、個人の投資対象として長らく最大の売れ筋商品だった。ドバイの宝飾店で17日撮影(2025年 ロイター/Amr Alfiky)
Manya Saini
[ドバイ 22日 ロイター] - 「黄金の街」とも呼ばれるアラブ首長国連邦(UAE)の都市ドバイの「ゴールド・スーク(金市場)」では22カラットの金の宝飾品が、結婚式や宗教的な祝い事、個人の投資対象として長らく最大の売れ筋商品だった。しかし、金の価格が高騰して過去最高値を更新する中で、金の宝飾品の代わりにダイヤモンドや、金の使用量が少ない宝飾品を物色する顧客が増えており、金一辺倒の流れに変化の兆しが表れている。
金は投資対象として高い人気を誇り、米国の関税などで需要が一段と高まっているが、金の宝飾品市場には違いがあると、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の中東・公共政策部門責任者アンドリュー・ネイラー氏は指摘する。「ドバイのような市場では影響に二面性がある。安全資産としての金への関心が高まる一方、金価格高騰で宝飾品の需要は冷え込む」という。
小売業者によると、ドバイの金市場は金の値上がりで消費者が他の商品を探す傾向が生じている。販売員のファハド・カーン氏は「最近は金価格(上昇)のせいで客足が途絶えた」と肩を落とす。
金市場で商品を物色していたラリタ・デイヴさん(52)も「金は今ちょっと高くて手が出しにくい。ダイヤモンドのほうがいいかもしれない」と金宝飾品以外の商品購入に前向きだった。
<高まる人造ダイヤ人気>
ドバイの金市場が顧客を集めるようになったのは80年前からで、イラン人とインド人のトレーダーが足がかりを築いた。両国には22カラットの金製品を装飾や投資として用いる伝統がある。しかしWGCによると、金は昨年27%も価格が上昇したことでUAEでは金宝飾品需要が約13%減少し、世界全体の11%減よりも大きな落ち込みとなった。
WGCが2月に発表した金需要動向報告は、金の価格が高止まりもしくは大きく変動し続けた場合、主要地域で今年は宝飾品需要がさらに圧迫される可能性があると予想。特にインドは価格の「水準」よりも「変動」が消費行動に影響を与える傾向が強まっていると指摘した。インドの販売動向の変化は、バイヤーが販売の主力を担うUAEなど中東湾岸市場にも波及する場合が多い。
米ゴールドマン・サックスは最近、今年末の金価格予想を1オンス=3700ドルに引き上げ、最高で4500ドルに達する可能性もあるとの予測を公表した。AJベルのラス・モールド投資部長は「金価格が高いほど宝飾品の需要が冷え込む可能性が高まる。これは『価格高騰の最大の治療法は高騰そのものだ』ということを示す古典的な例だ」と述べた。
金離れの兆しの一つに人造ダイヤモンドの台頭がある。
インドの宝飾品輸出業界団体のデータによると、インドからUAEへの人造ダイヤ輸出額は2024年に1億7100万ドルとなり、2年前の1億0900万ドルから約57%増加。UAEへのカット済みおよび研磨済みダイヤの輸出も24年4月から11月の間に3.7%増えた。UAEは23年に世界のダイヤ輸入国で第3位だった。
UAEのダイヤ宝飾品市場は売上高でみると2023年時点で世界全体に占める割合が1.5%に過ぎなかったが、30年までに年平均5.9%の成長を遂げ、市場規模が20億ドル近くに膨らむとグランド・ビュー・リサーチは予測している。この成長率は世界平均の4.5%より高く、中東・アフリカ地域では最速だ。
<貿易摩擦の影響>
ダイヤモンド市場で起きている対米貿易摩擦の影響の1つとして、代替的な市場や生産拠点を模索する動きの加速が挙げられると、インドの大手ダイヤ輸出企業の幹部2人が証言した。
貿易摩擦が数年にわたって続く可能性がある中、幹部の1人は、緊急対応計画としてインド国内の生産の一部をUAEなど海外へ移転する可能性があると明かした。
一方、小売業者マラバール・ゴールド&ダイヤモンズの国際事業マネジングディレクター、シャムラル・アハメド氏は、UAEにおける人造ダイヤ宝飾品の売上増は価格よりもデザインの好みにけん引される面が大きいと指摘し、金の宝飾品需要に対する強気の姿勢を崩していない。「価格に敏感な買い手は値下がりを待つかもしれないが、われわれの経験上、そうした値下がりは一時的で、買い手は新たな価格水準にすぐ適応する傾向がある」という。