最新記事

インフレ

インフレ不安、「リーマン後」や「石油危機」との類似点と相違点を解き明かす

THE COVID INFLATION SCARE

2021年10月13日(水)18時11分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)
マーケット

BRENDAN MCDERMIDーREUTERS

<コロナで経済が混乱する中、インフレへの懸念が強く意識されているが、過去の例と比較・分析してみると現在の状況はどれだけ危険なのか>

インフレ不安がメディアで飛び交っている。9月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)は前年同月比3.4%上昇し、13 年ぶりの高水準を記録。アメリカの8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.3%上昇した。持続的なインフレの可能性について、欧州やアメリカの政策立案者はどれほど懸念すべきなのだろう?

少なくともユーロ圏では、現在のインフレ懸念は想定の範囲内だ。過去の例が示すとおり、経済危機はまずデフレ懸念をもたらし、次にインフレ懸念を引き起こす。2008年の世界金融危機に続いた景気後退の最悪期にはデフレ不安が渦巻き、その後の経済回復のさなかでインフレが進んだ。

新型コロナ危機でも同じパターンが起きている。昨年の一時期、ユーロ圏では物価が下落し、パンデミックの影響でデフレが長引くと言われた。現状を正しく読み解くには、大局的な視野が必要になる。当局が発表するインフレ率は通常、12カ月前と比較したCPIの上昇率だ。つまり前年の物価が低ければ、対前年比である数字は高めとなる。

こうした「ベース効果」は、現在のインフレ率上昇の背景にある数多くの要素の1つというだけではない。1年前の物価低迷を考えると、これこそが理解のカギだ。

アメリカの事情は明らかに別

ベース効果が生み出した一時的な物価上昇を無視するには、過去12カ月間ではなく24カ月間のインフレ率を計算するのが最も手っ取り早い。この手法に基づいた場合、ユーロ圏の指数は顕著なインフレのダイナミクスを示していない。この2年間のHICP上昇率は年率でわずか1.5%だ。

HICPは変動の激しいエネルギー価格にも影響される。ユーロ圏の(エネルギー価格を除外した)コアインフレ率は近年、横ばいで推移し、2年ごとの上昇率は約1~1.5%にとどまっている。

一方、アメリカの事情は明らかに別だ。インフレ率は24カ月ベースで見ても上昇し、この2年間の年間平均は3.3%超。PCEデフレーター(個人消費支出総合指数)から食品・エネルギーを除いたコア指数も過去2年間の上昇率は2.5%以上だ。

パンデミックの混乱のなか、昨年前半に短期間ながら史上初のマイナス値を記録した原油先物価格は、今や1バレル=80ドル前後で取引されている。同様の激しい値動きは世界金融危機の際にも起きた。欧州では最近、天然ガスの先物価格が急騰しているが、一時的事態にすぎない可能性がある。金属などのほかの原材料も、産業の回復期には価格が急上昇するのが普通だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中