元犯罪者の雇用を促進せよ、「訳あり」人材が企業と経済を救う
Second Chances
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JOVANMANDIC/ISTOCK
<元犯罪者は労働市場に埋もれた人材の宝庫。「セカンドチャンス雇用」は経済的に判断して完全に合理的だ>
「銀行業と何の関係が?」
私はいつもそう聞かれる。銀行家が刑務所や司法制度について講演や執筆などをすることはあまりないからだ。
投資ストラテジストの仕事は正式には投資戦略を立て、顧客にアドバイスすることが中心だ。ただ経済を理解するには労働市場を理解しなければならない。そこで司法制度がアメリカの労働力に与える影響も論じる必要が出てくる。
社会の病弊はアメリカの労働力に大打撃を与えてきた。その最たるものが投獄と再犯の悪循環で、将来労働力になり得る数千万の人材が労働市場から失われてきた。こうした社会問題は大規模であるが故に、真の経済問題となってきた。
アメリカは歴史的な人手不足に陥っている。求人件数は7月時点で1090万人。この状況にコロナ禍が拍車を掛けてきたが、根底には長期化する実に恐ろしい問題がある。アメリカの人口動態だ。
少子化による人手不足は移民でも完全には埋め切れない。出生率低下はアメリカだけでなく世界的現象なのだ。アメリカは最近までミレニアル世代の恩恵に浴していたが、今後10年間にベビーブーム世代が1日平均1万人のペースで退職する見込みだ。1990年にピークを迎えたミニ・ベビーブームで生まれたミレニアル世代は、既に労働力に含まれている。
生産性はオートメーション化など技術の進歩で補完できるが、それにも限度があり波もあるようだ。長期的には労働力拡大を検討するほうが重要になる。
この点で言えば、アメリカは大変な状況に陥っている。大方の予測では、(今後10年の)GDPの伸びは年平均2%未満。80~90年代の平均3~4%に遠く及ばない上、本来の変動性によりさらに鈍化することも頻繁にあり、その結果、景気後退に陥りやすくなる。
生産性の高い労働力になり得る
解決策はある。過去の出生率は変えようがないが、非労働力人口を含めて、主流から取り残されている数千万人については、打つ手がある。
こうした潜在的労働力は高齢者、子育て世代、貧困層など広範囲に及ぶ。私の経験から言えば、企業にとって最良の策は元犯罪者を雇うことだ。
この「セカンドチャンス雇用」は、経済に大いに寄与し得る。まず規模が大きく、その大部分が見過ごされ、何より、非常に生産性の高い労働力になり得る人々だらけだからだ。