なぜ議論を「グラフィック化」すると、ヒラメキ溢れる会議になるのか?
グラフィックファシリテーションによるもう1つの効果は、ユーモアを伴った絵があると場が和みやすいという点です。ワシントン大学の心理学教授ジョン・ゴットマンは、世界各国の約3万組のカップルの調査を通じて、将来離婚するカップルと添い遂げるカップルを5分で見極める方法を見出したといいます。その指標の1つが「ユーモアがあるかどうか」。それほどユーモアが大事なのはコミュニケーション全般にいえること。会議で食い違いや対立が生じているときに、ファシリテーターが誰も発言しない様子をあえて描いてみる。ユーモアを交えながら「(外からは)こんな風にみえていますよ」と。それが場の緊張をほぐすきっかけになります。
まずはファシリテーターが率先して自己開示する。何を話しても大丈夫な「安心安全の場」であることを、身をもって表すことがポイントです。
「不確かさの壁打ち」を楽しむ
── ご著書には「参加者本人も無自覚な領域をグラフィックに描き出すことで気づきをもたらし、共有し合えるようにする」とありました。声のトーンや雰囲気から、内に秘めた想い、暗黙知などを感じ取るために、山田さんはどんなことを意識していますか。
相手が話している内容をいったん脇において、相手の人柄や雰囲気を知ろうとすることでしょうか。「〇〇さんって、このエピソードを語るときはとても楽しそうですね」とか。「いま悲しそうな声に聞こえるのだけどどう?」とか。
大事なのは、相手に仮説をぶつけてみてフィードバックをもらうことです。すり合わせをするから仮説の精度が上がるし、心の機微をとらえるための語彙も豊かになっていく。ここで「いや、それは少し違うんだよね」といったフィードバックをたくさんもらっておくと、ファシリテーションをするときに役立ちます。実際にみんなの前で絵を描くとなると、「この場の様子を一発で正しく読み取らなくては」とプレッシャーを感じますから。
私自身の経験を振り返ると、クリエイター養成学校のスクールディレクターとして、多様な個性をもつ学生たちと向き合ってきた経験が糧になっている気がします。感情を表に出さない学生だと、感情を汲み取るのに苦労することもしばしば。
「きっとこうではないか」と考え、相手のフィードバックを受け取って検証し、また提案するというプロセスで、感じ取る力が鍛えられていきます。
── なるほど、仮説でいいから相手に尋ねてみる姿勢が大事なのですね。
そうなんです。「不確かでもいいから声にしてみる」というのは、参加者にとっても大事な姿勢です。最近は企業からビジョン策定会議におけるファシリテーションの依頼が多いのですが、「ビジョンが鮮明になってからみんなに共有しよう」という参加者によく出くわします。でもそれではいつまでたっても声に出せないまま。小出しにして相手に伝えてはじめてクリアになっていく。そんな「不確かさの壁打ち」を楽しむことで、参加者同士のすり合わせが進み、ビジョンの輪郭が浮かび上がってきます。