景気刺激策、拙速な撤回に警戒感 よみがえる過去の失敗

米連邦準備理事会(FRB)がタカ派姿勢に転じたことにより、世界の金融市場は各国・地域当局が金融・財政刺激を早い段階で巻き戻し始める可能性に目覚めた。仏ボルドーで2016年3月撮影(2021年 ロイター/Regis Duvignau)
米連邦準備理事会(FRB)がタカ派姿勢に転じたことにより、世界の金融市場は各国・地域当局が金融・財政刺激を早い段階で巻き戻し始める可能性に目覚めた。拙速に当局が行動すれば、景気は回復が根付かないうちに息切れしかねないリスクにも気が付いた。
米連邦公開市場委員会(FOMC)は利上げ時期の見通しを2024年から23年に前倒しし、コロナ禍に対応した債券購入を終わらせる方法についても議論を始めている。
ノルウェー中央銀行は早ければ9月にも利上げする可能性がある。ニュージーランドでも強い経済指標を受けてエコノミストが利上げ予想時期を前倒しするようになっている。ドイツ連銀のワイトマン総裁とオーストリア中銀のホルツマン総裁は今週、欧州中央銀行(ECB)高官として初めて、1兆8500億ユーロ(2兆2000億ドル)規模のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の縮小を公然と口にした。
08年世界金融危機の後には、中銀はインフレ予防のための金融引き締めを急ぎ過ぎた結果、道を引き返す羽目になった。投資家はこの再来を懸念する。ECBは債務危機のさなかの11年4月と7月に利上げしたが、ほんの数カ月後に利下げに再転換。FRBは15年に利上げを始めたが、今は多くのアナリストから、不必要に景気回復を頓挫させた失策だったと見なされている。
チューリヒ・インシュアランス・グループの首席市場ストラテジスト、ギ・ミラー氏は「金融刺激策を早く撤回し過ぎるよりは、長く続け過ぎる方がましなことを理解するのが大事だ」と語る。
ラッセル・インベストメンツの債券グローバル責任者、ジェラード・フィッツパトリック氏は「過去に比較できる事例がある点は、今の市場に非常に有意だ」と述べ、FRBが利上げをあまりに急ぎ過ぎることへの懸念を示した上で、「これが実際に始まっている感じがもうしてきている」と話した。
FRBがハト派色を後退させれば、他の中銀も追随しかねないとの懸念もある。
問題は財政
しかし政策立案者が本当に留意すべきなのは、財政刺激策を拙速に引っ込めることによる悪影響の方かもしれない。
金融危機で各国・地域が打ち出した財政刺激策は、コロナ禍対応の財政刺激策に比べれば小さかった。しかも欧州など一部の地域では当時、財政緊縮論が幅を利かせており、刺激策はすぐに打ち切られた。