「4K」で高齢化のトラック業界を、輸送需要の急減と宅配需要の急増が襲っている
いくつもの要因により需給バランスが大きく崩れてしまった
コロナの影響で仕事を失った運送会社の多くが、荷動き拡大の続く領域に軸足を移しつつある。とはいえ元請けサイドの対応は厳しく、下請けへの業務委託料の水準はコロナ前に比べ低下している。
例えば、ある軽トラドライバーは、かつて所属していた大手宅配便会社の営業所に下請けとしての"復帰"を打診したところ、従来よりも三〇%ダウンの委託料を提示された。(92ページより)
燃料代が安くなっていること、受領印をもらわずに玄関先に荷物を置く「置き配」が許容され、対面での荷受けが減って配達業務の生産性が上がっていること。それらが、廃車担当者が口にした"値下げの根拠"だ。
そうでなくともコロナで休職中だったり、職を失った求職者が営業所に殺到している。つまり、しばらくは安い労働力の確保が見込まれるため、元請けは軽トラ会社に強気の姿勢を示すようになったということ。
こうした点からも、需給のバランスが大きく崩れてしまったことが理解できるだろう。
果たしてトラックドライバー業界はどうなっていくのか? ドライバー不足を補うべく、女性ドライバーや外国人ドライバーの就業促進も行われている。また、宅配ロッカーや「置き配」を普及させたり、将来に向けて自動運転トラックの実用化が進められるなど、さまざまな取り組みが行われてはいるようだ。
しかし複数の領域においてハードルは多く、また前述したとおり、"期待の星"であるはずの若者は自動車の運転や免許取得への関心が希薄だ。そうでなくても「4K仕事」だと言われているのに......。
トラックドライバー職が魅力のある仕事であれば、若者たちを呼び込めるかもしれない。ところが、これも繰り返しになるが、トラックドライバーの賃金水準は全産業平均よりも一~二割程度低い。そのうえ労働時間は他産業よりも長い。
もっとも、ここ数年は人手不足を背景に運賃の値上げに成功し、それを原資にした賃金の上昇も見られた。ただし、新型コロナ以降、荷動きの低迷でトラック運送会社の収益は悪化。業績の大幅な落ち込みを受けて、今後は運送コスト全体の約四割を占める人件費(ドライバーの賃金)にメスが入る可能性も否定できない、そうなれば、トラックドライバーはますます集まりにくくなるだろう。(170~171ページより)
冒頭で述べたとおり、現職ドライバーの高齢化は進む一方だ。そういう意味では、取り返しのつかない事態になるのは時間の問題だと思うしかない。だからこそ、日常的に宅配の恩恵を受けている我々も、この問題について考える必要がありそうだ。
『ルポ トラックドライバー』
刈屋大輔 著
朝日新書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。