ビジネスの基本「スーツ」はコロナ禍を生き残れるか?
ニューサウスウェールズ州の企業ニューイングランド・ウールは、イタリアの繊維メーカー向けのウールを地元の牧羊業者から調達している。同社マネージングディレクターのアンドリュー・ブランチ氏は、多くのバイヤーにとって供給過剰となっているのが現状だと話す。
シドニー西部の郊外にあるウール卸売市場で電話インタビューに応じたブランチ氏は、「彼らがすでに手許に抱えているウールを使い切るまでは、そもそも豪州市場に戻ってくることさえないだろう」
「小売店が開かなければ、すべてが滞ってしまう。注文に応じるためにウールを調達したのに、その注文の多くが米国や欧州全域のクライアントによってキャンセルされてしまった」
ブランチ氏によれば、オーストラリアのウール輸出額は年間30億豪ドルを超えるが、イタリアと並んでその大半を購入しているのは中国で、今となっては市場に残っている唯一の買い手だという。だが、その中国のバイヤーも、ウール購入量を減らしている。
メリノ種の羊を飼育する牧羊業者の多くは、生産したウールを納屋や倉庫施設に貯め込んでいる。もっとも、3年続いた干ばつからようやく回復しつつある牧羊業者のなかには、市場の値崩れにもかかわらずウールを売却し、何とか資金繰りを維持しているところもある。
「刈込んだ羊毛を抱え込んで価格回復を待てるような大規模なところばかりではない」と語るのは、ニューサウスウェールズ州のヤスという街の近郊で牧羊業を営むデイブ・ヤング氏。「私たちは、刈込みのあと比較的早いうちに市場に出荷せざるをえない立場にある」
ヤング氏の牧場では約4500頭の羊を飼育しているが、事業の一部を羊毛ではなくラム肉の供給に切り替えたという。
ウール製織工場の憂鬱
羊毛を生地に仕立てているイタリア北部の業者の状況を見てみよう。ボットポアラ氏は、自社の売上高が昨年の6300万ユーロから25%減少すると予想しており、回復には2~3年を要すると見込んでいる。
彼のビジネスはもっぱら婦人服用の生地を製造しているおかげで影響をある程度免れている。同業他社はもっと悲観的だ。
数世紀にわたる歴史を持つ年商5200万ユーロの同族企業フラテッリ・ピアチェンツァで総支配人の座にあるエットーレ・ピアチェンツァ氏は、「一部の事業については、売上高が50~80%落ちている」と話す。同氏は地元経済団体で製織産業部門のトップも務めている。
ボットポーラ氏によれば、彼の工場の売上高の50%以上は、特殊な方法で処理するか化学繊維のライクラを混合することによって伸縮性を高めたウールによるものだという。
というのも、製織工場関係者によれば、仮に少しでもスーツ生地への需要が残っているとすれば、汚れに強くしわになりにくい生地が求められる可能性が高く、他方でそうした生地はカジュアルウェアにも使えるからだ。
たとえばイタリアの高級服ブランドのエトロは、先日、ジャージ生地とウール・綿混紡の素材を使った「24時間ジャケット」を発売したばかりだ。