ビジネスの基本「スーツ」はコロナ禍を生き残れるか?
「クライアントはパジャマ姿」
徐々にカジュアルウェアに移行していく動きは、ここ数年にわたって進んでいた。2019年には、オーダーメイドのスーツ姿がひしめくことで有名なゴールドマン・サックスでさえ、社員のドレスコードを緩和した。シリコンバレーに集まる人々の個性あふれるファッションスタイルについてはご存知のとおりだ。
だが、こうした変化をいっそう加速したのはCOVID-19(新型コロナ感染症)である。ビジネスウェアの苦境を尻目に、ゆったりとした衣類やスポーツウェアは売上高を伸ばしている。
1ヶ月に900万人以上のオンライン購入者の行動を分析しているグローバルなファッション検索サイトであるLyst(リスト)によれば、世界の大半がロックダウン状態となった今年第2四半期、最も多く検索されたブランドはナイキだったという。
注目ブランドと商品のランキングを示す「Lyst Index」が誕生して以来、高級ファッションブランドが首位にならなかったのは今回が初めてだった。
8月1日までの3ヶ月間で、Lystで最も人気の商品とされたシリーズは、ギャップ傘下でタイツやジョギングパンツ、スウェットシャツやワークアウト用のトップスを販売する「アスリータ」だった。
ウェブサイト上の価格を調査しているスタイルセージがまとめたデータによれば、フランス、イタリア、ドイツで9月に最も値引率が高く、売上が伸びなかったアイテムの1つがスーツである。
最も値引率が高かったのはエイソス、トップマン、ゲス、ヒューゴボスといった低・中価格帯のレーベルで、最大で50%にも達した。
ビジネスウェアに対する需要の崩壊により、この夏はジョス・エー・バンク、ジェイクルーまで含む著名なアパレル小売企業が破産を申請し、他の多くも不確かな未来に直面している。
小売りコンサルタント企業のコアサイト・リサーチの予測では、米国では2万~2万5000店が年末までに閉店する可能性があるという。2019年には約9800店だった。
ロンドンの法律事務所メイヤーブラウンのパートナーであるジェームス・ウィテカー氏は、「正直なところ、今年はまったくビジネスウェアを買っていない。実際、シティを歩いていてもスーツのディスプレイを見かけることは少ない」と話す。
男性向けのオーダーメイド・ファッションで有名なロンドンの通りサビルロウで腕を磨いたテーラー、ジャスパー・リットマン氏にとっても、ロックダウンが終った後でさえ、ビジネスは「非常に不調」だという。
リットマン氏によれば、弁護士やバンカーを中心とするクライアントは「パジャマ姿で、家で仕事をしている」という。
例年なら年間約200着のスーツを仕立てるリットマン氏だが、2020年は、これまでのところ63着に留まっている。
前金を払ってすでに出来上がったスーツでさえ、顧客はわざわざ電車に乗って引き取りに来ることをためらっている。
「そんなことをする意味は無い。着る可能性のないスーツなら届けてもらう方がいい」
(Silvia Aloisi記者、 Jonathan Barrett記者、Martinne Geller記者、 翻訳:エァクレーレン)
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