世界株安の混乱、背後に中国証券規制当局の「頭脳流出」
一度は祖国へ戻った金融エリート「海亀族」から退職者が続出、今や市場は素人の手に委ねられた
8月27日、中国市場の混乱の背後には、かつて母国に戻った金融の「精鋭」たちの頭脳流出がある。北京の証券会社で26日撮影(2015年 REUTERS/Aly Song)
[上海 27日 ロイター] - 2008年の金融危機の真っただ中、欧米の金融機関は大幅な人員削減を進めていた。一方、中国政府はそのころ、自国の株式市場の改革を進めるべく、混乱する金融業界から中国系の優秀な人材の「引き抜き」を進めていた。
1年にわたって高騰が続いた中国株が数週間で急落し、政府が対策に躍起になった今年の夏、そうした人材は中国証券監督管理委員会(CSRC)にとって、これまで以上に必要な存在だった。
しかし海外から中国に戻り、「海亀族」と呼ばれたエリート専門家たちはすでに、当局の仕事に幻滅したり失望したりし、民間企業に戻っていた。
帰国した「精鋭」20人のうちの1人は、CSRCが当時「祖国のため犠牲になる」ことを訴えていたと振り返る。「われわれは力になりたかったので、家族も中国に戻して高額な仕事もあきらめた」のだという。
しかし、理想はほどなくして不信に変わる。収入は民間企業で得られる額に比べると微々たるものであり、CSRCに重用されているようにも見えなかったのが理由だ。
「数年経っても誰1人として昇進せず、一部の人は確たるポジションさえなかった」という。
オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の中国エコノミスト、Liu Li-Gang氏は「当時CSRCは国内外の両方の経験を必要としていたが、国際経験が最も豊富な人たちが追いやられた」と語った。
CSRCにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。
頭脳の流出
CSRCを去った人の中には、ABNアムロでエキゾチック・クレジット・デリバティブの責任者だったTang Xiaodong氏や、JPモルガン・チェースにいたLi Bingtao氏、ノーベル経済学賞受賞者ロバート・シラー氏に学んでいたLuo Dengpan氏もいる。彼らのいずれからもコメントは得られなかった。
ロイターの取材に応じた複数の内部関係者によると、過去1年で規制当局内の退職者が急増している。
上海証券取引所の当局者の1人は「ほぼ毎週のように退職届を出す人がいる。退職する人のペースは加速しているように見える」と語った。
中国のファンドマネジャーらは、そうした専門家の「集団脱出」によって市場が素人の手に委ねられてしまったと嘆く。