最新記事

欧州債務危機

市場が恐れるフランスの「ギリシャ化」

「格下げ」危機に揺れるフランスだが、今のままでは「転落のスパイラル」から脱するのは難しい

2012年1月16日(月)15時50分
クリー・コールカット

追い詰められて サルコジ(左)はメルケルの態度軟化を心待ちに? Thierry Roge-Reuters

 11月23日、ドイツの10年物国債の入札で金融機関の応札額が募集額を下回る「札割れ」が起きた。その後、日米欧の中央銀行が銀行に貸し出すドル資金の金利引き下げで協調すると発表。市場にはひとまず安心感が広がったものの、近いうちにユーロの「苦悩」が一掃される可能性は低そうだ。

 皮肉なことに、多くのヨーロッパ人はドイツの札割れのニュースを聞いて前途に希望を見いだした。これでようやくドイツも思いやりの気持ちを持ってくれる、というわけだ。

 何しろドイツのアンゲラ・メルケル首相は「堅物」だ。ユーロ危機に厳しい姿勢で臨み、危機の拡大を防ぐ策を練るより浪費国家に罰を加えたいのではないかと思えるような態度を取ってきた。

 しかし、24日にフランスのニコラ・サルコジ大統領、イタリアのマリオ・モンティ首相との会談を終えたメルケルは、これまでの姿勢を変えない意向を明言した。ドイツの「思いやり」は当面、諦めるしかなさそうだ。

フランス経済の健全性はスペイン以下

 フランスも、やきもきしていることだろう。格付け機関は、フランス国債に対するトリプルAの評価も安泰ではないと警告。フィッチ・レーティングスはフランスについて、国家財政への新たな衝撃を吸収できる余力は限られていると指摘した。

 投資家はフランス国債を敬遠する態度を強め、同国の借り入れコストは上昇し始めている。

 エコノミストたちが恐れているのはフランスの「ギリシャ化」──政府の借り入れコストが上昇し、債務返済がより困難になること。その結果、経済が弱体化して投資が減り、景気低迷と失業率の上昇を招くという悪循環だ。

 そんなフランスの運命を握っているのが、欧州中央銀行(ECB)で事実上の拒否権を持つドイツだ。ECBはユーロ圏17カ国の政府への直接貸し出しを禁じられている。浪費好きの政治家に利用されないようにするためだ。

 その方針を変えるにはドイツの同意が必要。だがドイツは、フランスなど危機に瀕した国々について、ECBから緊急援助を受けるより経済改革を行うべきだと主張している。

 それも一理ある。シンクタンクのリスボン評議会による最近の報告によれば、フランスの総合的な経済の健全性は、失業率が21・5%に達するスペインよりも評価が低い。不相応に大きい政府支出と競争力の低さ、若者の高失業率がその理由だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、iPhone空輸作戦 トランプ関税対応で

ワールド

米とイラン、12日に核開発巡る直接会談=米国務長官

ワールド

米議会下院、トランプ減税延長の予算決議案を可決

ビジネス

EU、米ハイテク大手に課税も 通商協議決裂なら─欧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が見せた「全力のよろこび」に反響
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    【クイズ】ペットとして、日本で1番人気の「犬種」は…
  • 10
    右にも左にもロシア機...米ステルス戦闘機コックピッ…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中