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風刺画で読み解く中国の現実 Superpower Satire (CHINA)
社会主義・中国での「資本家による搾取」...すべてを諦め「寝そべる」若者たち
©2021 Rebel Pepper/Wang Liming for Newsweek Japan
<中国の若者たちの間で、資本家への抵抗として急激に広がる「躺平(タンピン)」主義が見落としている重要な事実>
王さんはごく普通の大学生だった。卒業後、大都会の会社に就職して食費を切り詰め節約し、3年間でやっと5万人民元(85万円)をためた。しかし故郷でも不動産価格は最低1平方メートル当たり1万人民元。しかも高騰し続けている。休まず毎日残業するほど働いても、給料では不動産に手が出ない。マイホームを持てなければ結婚もできない。全ては自分と無縁。なら「躺平(タンピン)」するしかない──。
「躺平」は中国で最もはやっているネット用語だ。何もせず横になって寝るという意味だが、転じて全く努力せず、ただ最低限の生活を送ることを指す。今の中国では王さんのような何千何万もの若者が「躺平」主義を選ぶ。彼らはどんなに努力しても運命を変えられず、将来に希望を見いだせない。
「われわれは躺平を選んだ。これ以上、資本家たちのために働かない。何か間違ったことがある?」と、王さんたちは言う。普通の労働者は働けば働くだけ資本家に搾取される。「躺平」こそ資本階級に抵抗できる有効な手段だ、と彼らは考える。
「資本家に搾取される」──この言葉が社会主義中国に現れるのは不思議なことだ。共産党が1949年に新中国を建国したのは、資本家の搾取をなくすことが目的だった。72年間を経て、この世界一の社会主義強国の若者たちは資本家に搾取され、「躺平」でしか対抗できないと公言している。
しかし、王さんたちは「われわれは資本家らの企業のために残業や努力をしない。しかし国家のためには何でもやる」とも言う。努力しても未来が見えない、頑張っても自分の運命を変えられない。王さんたちはこれを体制の責任とは思わず、資本家に搾取と貪欲の罪をかぶせる。「躺平」を選んだ中国人の若者の中には、ネット愛国者の「小粉紅」も少なくない。彼らは欧米に対する中国政府の強硬な態度を賛美するが、目の前の現実にはあまりにも無力で「躺平」しか選べない。
そして王さんたちは一つ大事なことを忘れている。それは彼らが愛している中国が社会主義公有制国家であることだ。土地と生産材は全て国に属する。つまり、この国を管理している政府こそ、最大の資本家なのだ。
ポイント
小粉紅
シャオフェンフォン。1990年代以降に生まれ、「完全に赤く染まっていない未熟な共産主義者」を指す。中国語で小粉紅は薄ピンク色を意味することに由来する。
社会主義公有制
全人民所有制と労働者集団所有制が伝統的な社会主義公有制。中国でも次第に生産力発展の阻害要素となり、農村の人民公社解体や国有企業の株式制導入が進んだ。