コラム

人種差別のわいせつ男は敗れたが

2017年12月27日(水)10時50分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/ パックン(コラムニスト、タレント)

©2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<アラバマ州の連邦上院補選で人種差別、同性愛差別、さらに少女への性的暴行で告発された共和党候補が僅差で落選。これではアラバマの住民たちもあまりに恥ずかしくて素直に喜べない>

テレビには名誉毀損になりかねない形容詞が羅列されているが、どれも先日アラバマ州の連邦上院補選に出たロイ・ムーア候補の言動に基づく表現だ。

「アメリカがよかったときは?」と聞かれて奴隷制度のあった時代を持ち出し、ネイティブ・アメリカンとアジア人を reds and yellows(赤いのと黄色いの)と呼び、イスラム教徒は議員になれないと主張したことからの racist。同性愛は「獣姦と一緒だ」と言ったり「忌まわしい、不道徳、自然への大罪だ」と書いたり、全米で合法化された同性婚を自らの州最高裁長官の権限で阻止したことからの homophobic。

14歳の少女も含め、当時未成年だった6人の女性に性的嫌がらせや暴行を告発されたことからの child-molesting。9.11テロは同性愛や中絶を合法化した天罰だと言ったり、判事の時代に裁判をお祈りで始めたり、州最高裁の前に十戒の記念碑を設置したことからの religious nut。どれも事実無根の中傷......ではなさそう。あしからず。

ムーアは選挙に僅差で負けた。でもテレビを見ている2人は喜べない。彼が予備選から勝ち上がったのも、本選で半数近くの票を得たのも、アラバマを代表する有名人になったのも、どれも恥に感じる。喜びよりも恥ずかしさが先に来る。

全国民が共有する反応だ。なぜなら、ムーアを支持した1人はアメリカを代表する人物。メキシコ人は「レイプ犯と殺人鬼」と悪態をつき、イスラム教徒の入国を禁じ、白人至上主義者をかばった、あの人。トランスジェンダーの人の米軍入隊を禁じ、同性愛者にはウエディングケーキを売らなくていいと司法省を通して主張した、あの人。

20人の女性に性的暴行を告発され、「娘じゃなかったら俺が付き合っているかも」とイバンカを性的対象のように話し、10歳の少女を指して「10年後には俺と付き合っているだろう」と言った、あの人。一部のユダヤ教徒やキリスト教徒を喜ばせるためにエルサレムをイスラエルの首都として承認した、あの人。

あの racist, homophobic, molesting, religious nut が次の大統領選で負けても、恥ずかしい思いはなかなか拭えないだろう。アラバマの人たちの気持ち、よく分かる。

【ポイント】
RACIST, HOMOPHOBIC, CHILD-MOLESTING, RELIGIOUS NUT NARROWLY LOSES U.S. SENATE SEAT!

(人種差別主義者で同性愛嫌悪者、子供に性的虐待をした、熱狂的信者が連邦上院選に僅差で敗れる!)

WHEN THE SHAME WEARS OFF ... REMIND ME TO CELEBRATE.
(恥ずかしい思いが消えたら......お祝いをするように私に言って。)

本誌2018年1月2&9日号[最新号]掲載


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story