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コラム
風刺画で読み解く「超大国」の現実 Superpower Satire
中国農民の反撃が始まる日
©2017 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN
<北京で出稼ぎ農民の追い出しが始まったが、そのうち怒れる農民たちの反撃が始まるかもしれない>
「北京の歌舞伎町」をご存じだろうか。中心部の東直門近くにある約1キロのストリートに、わが新宿・歌舞伎町顔負けの怪しげな赤いネオンを放つ店がズラリと並んでいるのだ。
「鬼街(コイチエ)」と呼ばれるこの通りに並ぶのは、出稼ぎ農民がやっている飲食店。決してきれいとは言えないが、どの店も安くてうまい。外国人観光客にも人気だったが、この北京版・歌舞伎町はもう存在しない。北京市当局が昨年から「整理」を開始。店を改修させ、道を広げ、好き勝手に立てられていた看板を撤去......と、わい雑さが売りだったこの町を無機質な町に変えてしまったのだ。
北京市郊外にあった「出稼ぎ村」で、火事を理由にした立ち退き騒動が起きてから1カ月になる。付近では立ち退き反対デモが続くが、私は鬼街の整理を見たときから、今回のような事件がいつか起きると予想していた。
現在の共産党政府は、躍起になって汚いものや劣ったものを目の前から排除しようとしている。彼らにとって出稼ぎ農民は邪魔な「低端人口(底辺住民)」にほかならない。しかし劣ったものを排除するのは、共産党が大嫌いな「法西斯(ファシズム)」の総本山、「希特勒(ヒトラー)」のやり口のはずだ。
最近、ネットでは習近平(シー・チンピン)国家主席のやり方を皮肉って「習特勒」というツイッターアカウントが出現(中国語の「希」と「習」は発音が同じ)。出稼ぎ農民を追い出す警察の様子が、ユダヤ人を排除したナチスそっくりだとも批判された。同国人を排除している点で共産党はもっとたちが悪い。
かつて毛沢東は「農村が都市を包囲する」という戦略で中国の支配を確立した。今の中国で起きているのは、「都市が農村を排除する」現象だ。そもそもおかしいことに、毛沢東も鄧小平も、そして習近平も(少なくとも戸籍上は)農村出身者だ。
農民を排除しようとするのは、今の政府が中国農民の怖さを骨の髄まで知っているからかもしれない。
そのうち怒れる農民たちの反撃が始まって、再び「農村が都市を包囲する」、いや「農村が都市を排除する」日が来るかもしれない。
【ポイント】
北京不欢迎你
北京はあなたを歓迎しません
低端人口
低収入、低学歴、底辺産業に従事する主に農村出身の労働者を表す言葉で、北京五輪を控えた07年に北京市政府が初めて公文書で使用した
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