コラム

中国農民の反撃が始まる日

2017年12月19日(火)18時15分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

©2017 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<北京で出稼ぎ農民の追い出しが始まったが、そのうち怒れる農民たちの反撃が始まるかもしれない>

「北京の歌舞伎町」をご存じだろうか。中心部の東直門近くにある約1キロのストリートに、わが新宿・歌舞伎町顔負けの怪しげな赤いネオンを放つ店がズラリと並んでいるのだ。

「鬼街(コイチエ)」と呼ばれるこの通りに並ぶのは、出稼ぎ農民がやっている飲食店。決してきれいとは言えないが、どの店も安くてうまい。外国人観光客にも人気だったが、この北京版・歌舞伎町はもう存在しない。北京市当局が昨年から「整理」を開始。店を改修させ、道を広げ、好き勝手に立てられていた看板を撤去......と、わい雑さが売りだったこの町を無機質な町に変えてしまったのだ。

北京市郊外にあった「出稼ぎ村」で、火事を理由にした立ち退き騒動が起きてから1カ月になる。付近では立ち退き反対デモが続くが、私は鬼街の整理を見たときから、今回のような事件がいつか起きると予想していた。

現在の共産党政府は、躍起になって汚いものや劣ったものを目の前から排除しようとしている。彼らにとって出稼ぎ農民は邪魔な「低端人口(底辺住民)」にほかならない。しかし劣ったものを排除するのは、共産党が大嫌いな「法西斯(ファシズム)」の総本山、「希特勒(ヒトラー)」のやり口のはずだ。

最近、ネットでは習近平(シー・チンピン)国家主席のやり方を皮肉って「習特勒」というツイッターアカウントが出現(中国語の「希」と「習」は発音が同じ)。出稼ぎ農民を追い出す警察の様子が、ユダヤ人を排除したナチスそっくりだとも批判された。同国人を排除している点で共産党はもっとたちが悪い。

かつて毛沢東は「農村が都市を包囲する」という戦略で中国の支配を確立した。今の中国で起きているのは、「都市が農村を排除する」現象だ。そもそもおかしいことに、毛沢東も鄧小平も、そして習近平も(少なくとも戸籍上は)農村出身者だ。

農民を排除しようとするのは、今の政府が中国農民の怖さを骨の髄まで知っているからかもしれない。

そのうち怒れる農民たちの反撃が始まって、再び「農村が都市を包囲する」、いや「農村が都市を排除する」日が来るかもしれない。

【ポイント】
北京不欢迎你

北京はあなたを歓迎しません

低端人口
低収入、低学歴、底辺産業に従事する主に農村出身の労働者を表す言葉で、北京五輪を控えた07年に北京市政府が初めて公文書で使用した

本誌2017年12月26日号[最新号]掲載

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story