コラム

人の頭を持つ男、指がなく血の付いた手、三輪車に乗る豚......すべて「白夜」の続き

2019年01月17日(木)16時00分

批評家を含む多くの者が、彼の「白夜シリーズ」の作品を奇妙、あるいはダークだと評しているが、それについても、「暗いテーマでも奇妙なテーマでもない。単なる現実の常態の1つだ」と答えてくれた。

「私が撮影した『白夜シリーズ』などの写真は、主に人間性を反映している。人間性についての主観的な感情表現にすぎない。単純なドキュメンタリー写真でもない」

ビジュアルテクニック的には、一見すると、写真を始めたばかりの素人に見えるかもしれない。クリップオンのフラッシュを多用し、構図や美的感覚などもリーは気にしていないように見える。結果的に、写真にとって大切な決定的瞬間を逃しているとも、しばしば批評される。

だが、成都を含む中国の大都会やその周辺の多くは、一年の大半がスモッグで白っぽい風景になっていることが多い。その中で被写体を浮かび上がらせるためには、時にフラッシュが効果的だ。また、強烈なフラッシュライトが生み出す影は、リー自身がステートメント(概要説明)で述べているように、魂の影だ。ある種、彼の心象風景の一部になるのだろう。

ただ、構図と美的感覚については、確かにそれほど気を遣っていないかもしれない。しばしば被写体と準被写体、あるいは背景とのセパレーションを無視してフラッシュを焚いているため、写真の中で各要素が重なり合い、反発し合って見えるからだ。

そうすると、通常なら美しい抜けや、あるいは気持ちいいとされる距離感を生み出さない。マイナスになることさえ多い。

とはいえ、そうした構図や美的感覚は、リーが写真において、あるいは作品において何に大きなウェイトを置いているかによって変わってくる。そしてそれは、逆説的だが――また一般的な定義とは違うが――決定的瞬間なのだ。リー自身、イメージを切り取ったその瞬間が彼にとっての決定的瞬間だという。

つまりは、こういうことだろう。

成都の風景は彼の子供の頃と比べて、まったく変わってしまった。それどころか、大変動を遂げている中国では、現在の光景でさえ数年経てば見られなくなるかもしれない。そんなバックグラウンドの中で、リーは彼自身の白夜を、逃せばもう二度と巡り合わないかもしれない人間性という名の心象風景を、現実として切り取ろうとしているのだ。

それが通俗的な美的感覚などどうでもいいほどに生の魅力を放っているのである。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Feng Li @fenglee313

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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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