コラム

ウガンダのナイトライフ写真集『Fuck It』に、フォトジャーナリストが辿りついた理由

2019年01月31日(木)11時45分

加えて、被写体の選択もステレオタイプとは少し違う。カンパラに在住している白人たちも意図的に取り込んでいるのだ。そうすれば、ビジュアル的には弱くなるかもしれないのに――。

だが、彼ら白人たちも、そしてシビローニ自身も、紛れもなくカンパラのナイトライフに関わっている要素だ。彼らを省くことは不正直になるような気がすると、シビローニは言う。

シビローニのパーソナル・プロジェクトは、既に触れたように、全て「夜」に絡んだものだ。幼い頃、父親が車でよくナイトクルーズに連れて行ってくれたことに端を発しているのかもしれないと、彼は述懐する。

ラジオを聴きながら見た景色の美しさがまとわりつくようになった。子供は一人では夜に出歩けなかったから、より一層、夜に興味と親しみを持つようになった。彼はそう話す。17歳になる頃には、退屈さから逃れるため、クラブやレイブにハマっていた。そうした彼の過去、子供時代の記憶も、メタファーとなり、作品に作り物でない匂いを与えているのだろう。

加えて、シビローニの「夜」に対するアプローチは、彼自身のパーソナルな部分だけでなく、ドキュメンタリー・フォトジャーナリズムの機能も果たしている。『Fuck It』の作品が表す夜のカンパラは、宗教的な敬虔さがしばしば強く現れる昼と大きなコントラストを成す。昼、人々はさまざまなことで問題を抱え、もがき苦しんでいるけど、夜はそれを忘れ楽しんでいるのだと、彼は語る。

それが大きなテーマの1つだ。実際、『Fuci It』のタイトルも、彼が出会った女性の太ももの刺青からきている。イヤなことなんか全てファックしてしまいな、というように(上の組み写真の5枚目参照)。

2020年に出版予定の『Nsenene Republic(バッタの共和国)』も、夜のシリーズだが、こちらは大きな社会的メッセージを含んでいる。貧しさゆえ、バッタ(昆虫)を採集し食物としなければならないウガンダの文化を、夜を舞台にシュールに扱ったものだ。

「写真家になった理由は?」という質問に、彼はこう答えた。

「(写真が)遠いところに連れて行ってくれそうな感じがしたから」

まだまだ新たなる世界に羽ばたきそうだ。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Michele Sibiloni @michelesibiloni

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、停戦後に「ロシアと協議の用意」 ロは譲

ビジネス

VWが中国向け5車種の新モデル披露、シェア回復狙う

ビジネス

金価格、26年第2四半期までに1オンス4000ドル

ビジネス

ベーカー・ヒューズ、関税で通期実質利益に最大2億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「利下げ」は悪手で逆効果
  • 4
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 8
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 9
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story